新海誠監督作品の中で一番好きな映画(2013年公開。46分)の小説版。
第9話 言葉にできず。ーー雪野百香里と秋月孝雄
今まで生きてきて、今がいちぱん、しあわせかもしれない。
雪野はそう思う。
「俺、雪野さんのことが」
「ーー好きなんだと思う」
「私はね、あの場所でーー」
「あの場所で、ひとりで歩けるようになる練習をしてたの。ひとりでも、」
「ーー靴が、なくても」
私は我慢したのに。
私は言わなかったのに。
あなたが好きだって、私は言わなかったのに。
ーー思ってしまった。
雪野は手のひらからゆっくりと顔を上げる。ずっと思わないようにしていたのに、いま、私はーー
弾かれるように、駆け出していた。
「あんたは!」
「あんたは一生そうやって、自分は関係ないって顔して、」
「ーーずっとひとりで、生きてくんだ!」
彼の声に、息が止まる。
私はもう我慢できず、
裸足が、駆け出す。
きつく体を抱きしめられたのと、
甘い匂いに心をめちゃくちゃにされたのと、
爆発するような彼女の号泣が聞こえたのは、ぜんぶ同時だ。
「毎朝っ・・・・・・!ちゃんとスーツ着てっ、・・・・・・私・・・・・・ちゃんと、学校に行こうとしてたのっ」
「・・・・・・でも怖くて・・・・・・どうしても行けなくて・・・・・・」
「あの場所で、わたしっ・・・・・・」
「わたし、あなたに、救われてたの!」
そしてまた大声で、雪野さんは泣いてしまう。
そしてまた大声で、秋月くんは泣いてしまう。
もうなにも言葉にできず、まるでなにかに凍えたように、二人はきつく抱きあっている。
<感想>
雪野と孝雄ふたりの視点が平行しながら進む。
最後にふたりとも素直になれて救われた。
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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