元証券マンが「あれっ」と思ったこと

元証券マンが「あれっ」と思ったことをたまに書きます。

あれっ、潜在成長率を上げてデフレを解消?

 

【 日本のデフレが解消されない理由 】

 


 以下は「日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門」(藤沢数希著、ダイヤモンド社)からの一部抜粋。(第3回)

 


第3章 マクロ経済政策はなぜ死んだのか?


 なぜリフレ政策は効かないのか?

 


 ここでアメリカ国債の実質金利をRa、日本国債の実質金利をRj、それぞれの名目金利をIa、Ij、それぞれの期待インフレ率をKa、Kjとしましょう。期待インフレ率とは人々が予測するインフレ率です。

 

  Ra=Ia―Ka
  Rj=Ij―Kj

 

 さて、ここでアメリカと日本の潜在成長率をGa、Gjとしましょう。また、経済に中立な実質金利RnaRna、その時の名目金利をIna、Injとします。金融引き締めでも金融緩和でもない中立な金融政策とは、金利と成長率をおなじぐらいになるように誘導することです。つまり中立な金融政策では実質長期金利と潜在成長率が等しくなればいいでしょう。

 

  Ga=Rna=Ina―Ka
  Gj=Rna=Ina―Kj

 

 しかしマーケットで債券の投資家に求められているリターンは両方とも同じでRa=Rjでないといけません、ところが人口の減っていく老いぼれ国家の日本とアメリカのような人口も増えてどんどんイノベーションを生み出す国では成長率は違いますから当然、次のような不等式が成り立ちます。

 

  Ga>Gj

 

 またここで元に戻りますけどRa=Rjになるように市場の投資家から常に圧力を受けるわけです。つまり、現実には次のような関係になるわけです。

 

  Ga>Ra
  Gj<Rj

 

 要するにアメリカは常に成長率>金利の世界で、日本は常に成長率<金利の世界なのです。これは日本には慢性的な金融引き締め圧力で、アメリカには慢性的な金融緩和の圧力がかかることを意味します。アメリカや新興国がずっとバブル気味だった時に、日本はずっとデフレだったのもうなずけますね。

 

 そして日銀のゼロ金利政策量的緩和は、日本の物価は上げませんでしたが、このように世界の金融マーケットに出ていき、アメリカの住宅バブルを後押ししたといわれています。世界同時金融危機の後は、アメリカの量的緩和新興国のバブルを加速させ、資源価格や食料価格の高騰を招いている可能性があります。

 

「潜在成長率の低い国にはカネのグローバル化から常に金融手金デフレ圧力がかかり続けるのです。

 

 アメリカと日本では人口増加率が2%ぐらい開いていますし、アメリカにはシリコンバレーのようにイノベーションが起こるしくみがたくさんあります。そしてニューヨークには世界最高の金融センターがありますし、ハイリスクなベンチャー企業に投資をするスーパーリッチな個人がたくさんいます。


 生産性を高める力も1%ぐらいは開いていてもおかしくないでしょう。つまり人口と生産性で、アメリカと日本の潜在成長率のちがいはどんぶり勘定で3%もあるのです。中立から1%金利を引き締めると大体物価は1%下がりますし、逆に1%金利を下げると大体物価が1%あがります。

 

 アメリカと日本の実質長期金利が同じだとすると、相対的な金融緩和と金融引き締めの格差によりインフレ率に3%も差が出ることがわかります。ということはアメリカのインフレ率がプラス2%だと、日本のインフレ率はマイナス1%ぐらいになってしまいます。2008年以降はアメリカも超低金利に突入していますしデフレ気味なので、それより3%デフレ気味になると考えると日本のデフレはなかなか解消しないと思えます。

 

 そういう意味で日本の慢性的な経済の停滞を解決したいならばボウリングの一番ピンはデフレをなおすことではなく、潜在成長率を上げることなのです。デフレは経済の停滞の原因ではなく結果です。デフレからの脱却はボウリングでいえば最後に倒れるピンです。

 

 ヒト・モノ・カネだけが完全にグローバル化していますし、モノも日本は資源のない貿易立国なので農産物のような政治力が強いところ以外はかなりグローバル化しています。ところが人だけはまだぜんぜんグローバル化していないわけです。ヒトは簡単に住む国を変えないからです。思考実験として、ヒト・モノ・カネが完全にグローバル化する世界を思い浮かべれば、それは経済的には国境が完全になくなるということといっしょなので、潜在成長率の差も消滅して、デフレも解消されていることでしょう。

 

 それではどうやって潜在成長率を上げればいいのでしょうか。人口が同じだったら生産性を上げるしかありません。生産性を上げるには不必要な規制を撤廃して民間企業がどんどん自由な競争をするしかありません。お役所の公務員や政府に守られている官営企業が切磋琢磨してイノベーションが生まれることはありえないでしょう。先進国でさらにテクノロジーのフロンティアを切り開いていくのは、優秀な起業家であり、そういう起業家を育てる洗練された金融システムなのです。

 

 ところが日本では、成功したベンチャー企業の経営者を格差格差と騒いでつぶしたり、ヘッジファンド投資銀行マネーゲームだハゲタカだといって追い出そうとしたりで、うしろ自ら潜在成長率を下げるようなことばかりやっているのです。また現在の農業や医療や教育のように規制と既得権益でガチガチにしばられている分野は、少し規制緩和してどんどん企業が参入できるようにするだけで、いっぺんに生産性が向上するでしょう。イノベーションは最先端のハイテク分野だけの話ではありません。

 


<感想>
 「日本の慢性的な経済の停滞を解決するためには潜在成長率を上げること、その結果としてデフレを解消する」と著者は言う。
個人的に少しでも寄与したいと思う。

 

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