元証券マンが「あれっ」と思ったこと

元証券マンが「あれっ」と思ったことをたまに書きます。

あれっ、大学はアカデミアではなく、ファクトリー?

 

【 中学生からの大学講義:内田樹

 


 以下は、「続・中学生からの大学講義1 学ぶということ」(ちくまプリマー新書)からの一部抜粋。

 


生きる力を高める 内田樹(その2)

 


あらゆる社会制度が「株式会社化」する流れ

 


 株式会社は、民主主義的なものではありませんし、もちろん立憲主義的なものでもありません。経営判断を下すに当たって、従業員の過半の同意を求めるような経営者はいませんし、創業者の遺訓だの定款の文言を引き合いに出して経営判断の妥当性について議論するような会社はありません。株式会社ではCEO(最高経営責任者)に権限の情報も一元的に集中します。彼らには決定権がある代わりに経営判断に失敗した場合は責任をとらなければなりません。業績が上がらなければ簡単に解雇される。

 


 経営判断の適否はマーケットに丸投げするしかない。経営判断が正しかったか間違っていたかはマーケットがすぐに決定してくれます。売り上げや株価によって経営判断の適否はただちに決定される。経営判断の決定がどれほど独善的にあろうと、非民主的であろうと、関係ない。市場が好感すれば、それは「正しい判断」であったということになる。CEOがどれほど独善的で不快な人物であっても、株価が上がる限り会社の持ち主である株主たちは誰も文句を言いません。

 

 だから株式会社では上位者にはそれなりの権限が与えられ、それなりの給与が支給され、彼らはそれなりの情報にアクセスできる。ランクが低い人びとは権限も情報も給与も限定されたものしか与えられない。平等も民主主義も表現の自由も株式会社にはありません。でも、誰もそんなものを求めて会社に入るわけじゃないからいいのです。


 問題は、株式会社という資本主義経済活動に最適化した組織体をそれ以外のすべての社会制度にまで拡大適用しようとする「株式会社化」の流れです。

国民国家を株式会社化しようとするというアイデアはいまに始まった話ではありません。2000年の大統領選に出馬したジョージ・W・ブッシュが自分が大統領になったら株式会社のCEOのように国を運営したいと宣言したのが最初です。そのときに彼が自分の理想とするCEOとして名前をあげたのがエンロンのケネス・レイでした。エンロンはその後、大規模な証券詐欺によって倒産し、ケネス・レイは逮捕されました。アメリカ大統領が自らの理想として、その後粉飾決算で逮捕されることになるCEOの実名を挙げたことの意味は重いと僕は思います。

 


大学はもはや「ファクトリー」になっている


君たちに一番関係のあることは大学の株式会社化です。いま文科省は学校教育法の改正を進めていますが、その趣旨は大学を株式会社のように改組せよということです。

 


ここには「何のために大学は存在するのか?」という根源的な問いかけがありません。そんな問いはナンセンスだと思っている人たちで大学もすでに埋め尽くされつつあります。「志願者を集めるために大学はあり、卒業生を就職させるために大学はある。大学はビジネスだ」そう思っている人たちが現代日本では大学を経営している。

 


アカデミアはその時代の支配的な価値観やイデオロギーとは独立した空間です。社会内部の特異点と言ってもよい。


そこだけは、世俗の世界のちまちました損得勘定や政治的抑圧や宗教的な制約から解放された、思考の自由が担保されていた。人間たちの共同体を維持し、成熟させるためには、そのような場がなくてはならないということを直感した人たちがアカデミアを支えてきた。


そこでは独特の長い、ゆったりとした時間が流れていました。知性と感性の成熟のためには、それだけの時間が必要だからです。どのようなことを学んでも、何を研究しても、「それを勉強すると年収いくらになるのか」とか「それを研究すると外部資金をどれくらい引っ張ってこれるのか」というようなせこい問いを向けられることはなかった。

 

いまの大学はもうそんなのどかな空間ではそのような悠長なことは誰も許してくれない。外の社会と同じ速度で大学内部の時間も流れ、外の社会で高く格付けされている人間が大学内部でも高く格付けされる。それが大学のあるべき姿だと政治家も官僚もメディアも、大学人自身も考えている。残念ながら、これは「ファクトリー」ではあっても、もう「アカデミア」ではありません。

 


<感想>
 すべての社会制度にまで拡大適用しようとする「株式会社化」の流れ。
 大学は、「ファクトリー」ではなく、思考の自由が担保された、知性と感性の成熟のための「アカデミア」であって欲しい。

 

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