元証券マンが「あれっ」と思ったこと

元証券マンが「あれっ」と思ったことをたまに書きます。

あれっ、原作者と制作側の信頼関係の構築?

 

【 セクシー田中さん:信頼関係はあったか? 】

 


 2024/5/31、日本テレビから、『ドラマ「セクシー田中さん」社内特別調査チームの調査結果について』が発表された。
https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/20240531.html

 

 以下は、概要P2からの一部抜粋。

1.番組Pは、出版社の編集担当者or/andライツ担当者を通して、原作者にプロットや脚本を提示する。

2.出版社を通じた原作者からの指摘を脚本家に伝え、修正等を行う。

 

 一方、「VRおじさんの初恋」の原作者・暴力とも子の以下Noteからの一部抜粋。

 

 

VRおじさんの初恋』ドラマ版と原作の違いについて

https://note.com/violencetomoko/n/n1779ede1bf9b

 

私は原作者ですが、脚本についてはあくまで「監修っぽいチェックをさせていただいた」立場であり、基本的にはドラマ版の制作の方向性はドラマの制作スタッフさんが決めたものになります。

その上でなんですが、原作から変更、追加された要素が累積される都合上、特に終盤は主人公である直樹、穂波の行動や考え方には原作と大きな違いが生じています(と、暴力は思ってます)。「違いがあって面白い!」と感じる方もいれば「これだけ違うと原作とは別の話かも」と感じる方もおられるでしょう。


『穂波は決して聖人君子ではない』とは、ドラマスタッフさんからのヒアリングの場でも伝えていました。
『穂波は良かれと思って先回りをする人です。娘はそれが嫌だった。
失敗をしないに越したことはないと考え、そのように生きてきた人なので、だからこそ直樹と触れ合ったことの衝撃が大きかったキャラである。』と。
その設定を大きく膨らませたものがドラマ中盤以降のかなめになっていたと思います。


何よりも坂東彌十郎さんの大きな大きな存在感…飛鳥との対話シーンでの、生まれる感情の一粒一粒が全て感じ取れるような繊細な演技は本当に素晴らしかったです。


『直樹の物語として』ストイックに全体が構築されていた原作に比べるとドラマ版は明らかに群像劇であり、のみならず、その群像劇的構造が直樹のキャラクター性にも少なからず影響を与えています。

 

メッセージ性の変化
暴力とも子の世界観で構築された原作が、ドラマスタッフによって映像的な見応えと満足度を目指し肉付けをした結果、抱える物語性が変化した。
それはあたかも、触れる登場人物の数が増えたことによって直樹が徐々に積極性を獲得していくことと相似形のような現象だったと思います。ドラマ版の直樹は大きな人間的成長をしています。それにより社会性に強くコミットする話となった。

これを良しとするか否とするか…基本的には人間が成長することに何の問題もないようには思えます。しかしこの原作のピュアネスをキープする意味で「もうちょっと原作に寄せて」というお願いを、そうする根拠を添えて出す可能性はあるにはありました。


今もこの漫画に対する自己評価は大きくは変わらず。ただ世代論のようなものはあくまで土台であり、漫画として重要なのは「直樹がどういう人物で、その人物が起こしたアクションが腑に落ちるものかどうか」でした。それをこのように仕上げたものが暴力とも子の作家性である…というのは結果論ですが、だからこそ、ほかの作家さんが書いたらこうはならないだろうというところに意味がある。

その上で、私はシナリオを確認し意見を言える立場にある以上はすべきことがあるとも思っていました。それは「ドラマ版と原作が対立するものにならないように、脚本に意見を寄せること」です。

 

 

原作を好ましく思っている人たちに対して原作者としてやれる範囲のことはしたい。さりとてドラマ版の完成度にもできる限りは水を差したくない。
重要なことは大きく2つ、

・ドラマ版がそれ単体でちゃんと面白いこと
・ドラマ版が原作を否定するような物語ではないこと

 

それを満たすために、原作とまったく同じ筋をたどる必要はないと私は思いましたし、必要性があるならば直樹や穂波の行動が多少変わっても構わない。その上で、芯を外さずに物語を拡張していただけさえすれば…と、脚本チェック時にいくつかの指摘をさせていただきました。

そうして完パケのデータを拝見して…
『原作を中心として拡張されたものがドラマ版である、と解釈することがちゃんとできる』
そのようにしっかり言える内容だと思いました。

 

なんなら、仮に原作で何か描写に食い足りなさを感じていた人がいたとして、ドラマの補足によって多くの満足を得るというプラスの可能性すらある。(実際にどうだったかは…言うまでもないと思います。みなさんのポジティブな感想が全てです!)

物語の後半、自分の想いをぐんぐん言語化できるようになる直樹の目の覚めるような頼もしさ。野間口徹さんによるナチュラルな振る舞いと、意思をしっかり載せた行動の演じ分けの塩梅に凄みが感じられる熱演でした。野間口徹さんでなければ出せなかった説得力、野間口徹さんだったからこそ生まれたドラマ版直樹のキャラ立ちだと感じています!

 

らせんの中心とその外側の関係
作品全体に載っているキャラの熱量が増して、さらに脚本の森野マッシュさん、吉田照幸さん、スタッフさんそれぞれがこの作品に託したい思いがある。そして野間口徹さんはじめ、キャストの方々が演技を通じて視聴者さんに向けて放った思いがある。
ドラマ版『VRおじさんの初恋』は原作を中心軸に添えつつ、様々な人の想いを乗せてらせん状に拡張された作品だと私は考えています。原作が原作にしかない意思を持っているように、ドラマ版にはドラマ版にしかない意思をもった作品になっている。
そしてその一番外側に、このドラマ版を見て何かを感じてくださった視聴者さんがいます。
私はそのことをかなり肯定的に捉えています!

…その上で、でも原作はもともとはこういう話だったよね?と思い振り返る方々に対して私は「そうです!」という立場でいたい、原作者として!

 

 

ご参考)ドラマ「セクシー田中さん」調査報告書を公表 日本テレビ https://news.ntv.co.jp/category/society/384db4ff849e4d0ba124738d4686498c

 

 

<感想>

原作者と脚本家を含めたドラマ制作側との間に、信頼関係が構築されていて、『原作を中心として拡張されたものがドラマ版である、と解釈することがちゃんとでき』ていれば、セクシー田中さんのような事件が起こることはことはなかったものと思われる。

 

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