元証券マンが「あれっ」と思ったこと

元証券マンが「あれっ」と思ったことをたまに書きます。

あれっ、MoM要件での決議は事案次第?

 

東京機械製作所:MoM要件の決議 】

 


東京機械製作所事件:3か月弱の期間で約4割の株式を取得したADCらによる「利害関係者を除く78.96%の株主の賛成をもってADCらの買収防衛策の発動(新株予約権の無償割当て)の差止め」の訴えは認められなかった事案

 

 以下は、東京機械製作所事件のマジョリティー・オブ・マイノリティー(MoM)について、添付Webサイトからの一部抜粋。(その2)
https://www.jpx.co.jp/corporate/research-study/research-group/cg27su00000086b6-att/20221125_1.pdf

 


3.本件で MoM要件による決議を選択したことの当否

(1)問題の所在

我が国の判例法理が採用する判断枠組みは、原則として、勧告的決議を含む株主総会決議を通じた多数株主の意思が買収防衛を是とする場合に買収防衛策の必要性を認めるというものであるため、当該事案の下で株主総会決議を通じた株主意思の適正な発現であると評価できる場合には、利害関係者が保有する株式の議決権行使を認めずに集計された決議、すなわちMoM要件による決議であっても、その内容を裁判所としては尊重すべきということになるからです。

 


(2)ADCらによる株式買い集めの手法とMoM要件による株主意思の確認

この問題を考えるに当たり本件で特に注目すべきであると思われる事情は、本件の原審決定及び抗告審決定においても詳細に認定されているところではあるのですが、短期間に市場内で東京機械製作所株式の約4割を買い集めたADCらの買収手法であるといえそうです。

 

プラスアルファの事情として、株式の買い集めの手法に問題があることなどを理由に、当該買収者に売却された株式については必ずしも買収に賛同して売却されたわけではないということが、MoM要件の採用を正当化するためには指摘される必要があると考えます。

 

そのように考えますと、ADCらが市場内で買い集めた東京機械製作所株式について、当該株式の元株主、すなわち売主がADCらによる買収に賛同しているから当該株式を売却したと一般に推認することは必ずしも適切ではない事案であるということができますので、当該株式について株主総会でADCらが買収防衛策に反対する方向で議決権行使をすることを認めるべきではないという議論が成り立ち得るように思われます。

 

強圧性が相当程度認められる状況下で買い集められた株式であると解されることからすれば、買い集められた株式の全てについて、買収者による買収を是とする方向での(すなわち買収防衛を否とする方向での)議決権行使を認めることは、多数株主の意思の適正な発現を阻害する要因であって、適切ではないと考えることができるからです。

 

そうしますと、本件の原審決定及び抗告審決定は、ADCらによる株式の買い集めにおける強圧性の存在やその程度を中心的な理由として、利害関係者が保有する株式の議決権行使を認めない形で集計された株主総会決議であっても、その内容を裁判所としては尊重すべきという立場を示していますが、妥当な判示であると評価できるとともに、そのような立場は、従来の我が国の買収防衛策を巡る判例法理及びその背後にある考え方からしても異質なものではないと解されます。

 


(3)市場内買い集め(一般)とMoM要件による株主意思の確認

本件では、原審決定及び抗告審決定において、MoM要件による株主意思確認決議が是認されましたが、これまで見てきましたように、本件の敵対的買収者、すなわちADCらによる株式の買い集めの態様の特殊性とその評価に起因して、買収防衛策の発動を巡る株主意思確認決議においてADCらの議決権行使を認めないという対応が正当化されると考えられる点には、やはり十分に留意する必要があるように思われます。

 

ですので、市場内で株式を買い集めるタイプの買収については強圧性が認められるからMoM要件による決議が正当化できるという議論は、そこまで一般化して理解することには疑問の余地があるようにも思われまして、私自身の立場としては、あくまで事案次第で考える必要があるのではないかと考えています。

 


<感想>
「市場内で株式を買い集めるタイプの買収=強圧性が認められる⇒MoM要件による決議が正当化できる」という一般化には疑問で、あくまで事案次第という意見に賛成だ。

 

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