【 TBS:世界を見据えたIPビジネス 】
TBSホールディングスが、U-NEXT HOLDINGSとの資本業務提携を発表した。
内容としては、TBS HDがU-NEXT HOLDINGSの代表取締役社長CEOである宇野康秀氏から、U-NEXT HOLDINGS株式11,627,900株を市場外の相対取引で取得するというもの。取得価額の総額は約200億円で、取得後のTBS HDのU-NEXT HOLDINGSに対する持株比率は8.03%となる。
一見すると、
「TBSがU-NEXTとの関係を深めた」
「動画配信サービスとの提携を強化した」
という話に見える。
もちろん、それ自体は間違いではない。
しかし、TBSを主語にして見ると、もう少し大きな絵が見えてくるように思われる。
それは、TBSが、既存のテレビ局として放送枠の中で番組を作る会社に留まるのではなく、世界を見据えたコンテンツ制作・IPビジネス企業へと進化しようとしている、ということである。
1. TBSの狙いは「配信先の確保」だけではない
今回のU-NEXT HOLDINGSとの資本業務提携では、TBSグループが有するドラマ制作力、映像・音楽アーカイブ等の知的財産と、U-NEXTグループが持つ国内最大級の配信プラットフォーム、海外有力パートナーとのネットワーク、店舗・施設の顧客基盤等を結合させることが想定されている。
ここで重要なのは、TBSにとってU-NEXTは単なる「配信先」ではないという点である。
従来のテレビ局の発想であれば、番組を制作し、地上波で放送し、その後に見逃し配信や二次利用で収益化する、という流れが中心だった。
しかし、今のTBSが見ているのは、もう少し広い世界である。
地上波、配信、海外展開、映画、アニメ、ライブ、グッズ、体験型イベント、ライセンス、フォーマット販売。
ひとつのコンテンツやIPを起点として、複数の出口で収益化する。
つまり、番組を「一度放送して終わり」の商品として見るのではなく、長期間にわたり価値を生むIP資産として育てる方向である。
その意味で、今回のU-NEXTとの提携強化は、TBSが自社コンテンツの出口を広げるだけでなく、IPビジネス全体のバリューチェーンを広げる動きと見ることができる。
2. Netflix案件は、すでにその先行事例だった
この流れは、今回突然始まったものではない。
象徴的なのが、TBSグループのTHE SEVENとNetflixとの関係である。
THE SEVENは、TBS HDが出資して設立した、世界市場に向けたハイエンドなコンテンツの企画開発・プロデュースを行う会社である。Netflixとの戦略的提携により、THE SEVENが製作するオリジナル実写作品を世界に配信する体制が作られている。
この時点で、TBSはすでに「日本のテレビ局が国内向けに番組を作る」という枠を超え始めていた。
Netflixを通じて世界へ届ける。
世界配信を前提に、制作体制、人材、VFX、スタジオ、企画開発を整える。
これは、国内テレビ局の延長線上というより、グローバルOTT時代の制作スタジオに近い発想である。
さらに、TBSとNetflixによるオリジナル作品第3弾として「九条の大罪」も展開されている。これも、TBSが制作力を活かしながら、配信プラットフォームを通じて世界へ出ていく動きといえる。
つまり、TBSはすでにNetflix案件を通じて、
「国内で放送するための番組制作」から、
「世界で消費されるコンテンツ制作」へ、
軸足を動かし始めていたのである。
3. U-NEXT、CJ ENM、Netflix、Legendary、Disney――点ではなく線で見る
今回のU-NEXTとの資本業務提携だけを見ると、国内配信プラットフォームとの関係強化に見える。
しかし、TBSの最近の動きを並べると、かなり印象が変わる。
U-NEXTとは、Paravi統合以降、国内配信基盤を強化してきた。
CJ ENMとは、U-NEXTを含めた3社で合弁会社を設立し、映像コンテンツの企画、IPの調達・投資・開発を行う枠組みを作っている。
Netflixとは、THE SEVENを通じて世界配信を前提とする実写コンテンツ制作に取り組んでいる。
Legendary Entertainmentとは、日本発IPを原作とした作品の共同企画・開発を進める戦略的パートナーシップを締結している。
Disneyとも、THE SEVENを通じた実写ドラマシリーズの共同開発契約を締結している。
さらに、アニメ・IP事業ではSAND Bを通じて、アニメIPの創出体制を強化している。
こうして見ると、TBSは単発で色々な会社と提携しているのではなく、かなり明確に「IPを作る」「IPを育てる」「IPを世界へ届ける」「IPを複数の出口で収益化する」という方向へ動いているように見える。
まさに、点ではなく線である。
4. あれっと思ったこと
今回のU-NEXTとの資本業務提携で「あれっ」と思ったのは、TBSがもはや単なるテレビ局として動いていないように見える点である。
もちろん、TBSの原点がテレビ放送にあることは変わらない。
しかし、今のTBSが目指しているのは、テレビ番組を作って広告収入を得る会社、というだけではない。
自らIPを生み出し、外部の有力IPも取り込み、NetflixやDisneyのようなグローバル配信プラットフォームとも組み、U-NEXTのような国内配信基盤とも深く結びつき、CJ ENMやLegendaryのような海外の制作・IP企業とも連携する。
この動きは、かなり本格的な「IPカンパニー化」と見ることができるのではないか。
TBSが自社の中長期ビジョンで掲げている「メディアグループからコンテンツグループへ」という方向性が、ここにきて具体的な資本提携や制作提携として形になってきたように見える。
5. U-NEXTとの提携強化は「国内の出口」を押さえる意味が大きい
では、なぜここでU-NEXTなのか。
私は、TBSにとってU-NEXTは、国内における重要な「出口」なのだと思う。
NetflixやDisneyのようなグローバルプラットフォームは、世界へ出ていくためには非常に強力である。一方で、そこに依存しすぎると、TBS側が持つIPの収益機会や主導権が限定される可能性もある。
その点、U-NEXTとの関係を深めることは、国内における配信基盤を確保しながら、自社コンテンツの価値を高める意味を持つ。
さらに、U-NEXTグループは動画配信だけではない。店舗・施設ソリューション、業務用カラオケ、店舗向け映像配信、金融・不動産・グローバル事業など、かなり多面的な顧客接点を持っている。
TBSのコンテンツを、家庭のテレビやスマホだけでなく、店舗、施設、イベント、カラオケ、リアル空間にも広げていく。
この発想は、まさに「放送枠を超える」動きである。
6. テレビ局にとっての競争相手は、もはやテレビ局だけではない
テレビ局同士で視聴率を競う時代から、視聴者の可処分時間をNetflix、YouTube、TikTok、Amazon、Disney、ゲーム、SNSと奪い合う時代になっている。
その中で、テレビ局が従来型の放送事業だけに留まれば、成長余地は限られる。
だからこそ、TBSはコンテンツ制作力を核にしながら、配信、海外、体験、IP、アニメ、VFX、スタジオ、ライセンスへと領域を広げているのだと思う。
これは守りの戦略ではなく、攻めの戦略である。
地上波の視聴率低下や広告市場の変化に対応するために、仕方なく配信に出ていく、という話ではない。
むしろ、テレビ局が長年蓄積してきた制作力、ブランド、クリエイター、アーカイブ、IP、人材を、世界市場で再評価させるための動きである。
7. ただし、課題もある
もっとも、IPビジネスは簡単ではない。
巨額の制作費を投じても、必ずヒットするわけではない。
世界市場を見据えるほど、制作費も人材獲得コストも上がる。
また、NetflixやDisneyのようなグローバルプラットフォームと組む場合、世界に届ける力は強い一方で、作品の権利、収益配分、二次利用の自由度をどこまで確保できるのかも重要になる。
U-NEXTとの関係についても、資本関係を強めることで協業は進みやすくなるが、TBSがどこまで主体的にIP収益を取り込めるのかは、今後の具体的な案件を見ていく必要がある。
つまり、今回の動きは期待できる一方で、投資家としては、
「提携しました」
「世界展開します」
だけではなく、
その結果としてどのような収益が生まれるのか、
どの程度の投資回収ができるのか、
TBSにどのような権利が残るのか、
という点を見ていく必要がある。
8. まとめ
今回のTBSによるU-NEXT HOLDINGS株式の追加取得は、単なる動画配信サービスとの提携強化ではないように思われる。
TBSを主語にして見ると、Netflix、U-NEXT、CJ ENM、Legendary、Disney、SAND Bといった動きがつながり、TBSが「テレビ局」から「IPカンパニー」へと進化しようとしている姿が見えてくる。
番組を作って放送する。
そこから、IPを作り、持ち、育て、世界へ届け、複数の出口で収益化する。
今回の資本業務提携は、その流れの中に位置づけられるのではないか。
あれっと思ったこと。
TBSは、既存のテレビ局に留まることなく、世界を見据えたコンテンツ制作・IPビジネス企業へ、本気で舵を切っているのかもしれない。
そして、この変化は、テレビ局を見る目線そのものを変える必要があることを示しているようにも思われる。
これからのテレビ局は、視聴率や広告収入だけで評価する会社ではなく、どれだけ強いIPを生み出し、どれだけ長く、多面的に収益化できるかで評価される会社になっていくのかもしれない。
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
発行者HP http://tsuru1.blog.fc2.com/
同note https://note.com/tsuruichipooh
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