元証券マンが「あれっ」と思ったこと

元証券マンが日常の『あれっ?』を深掘り。数字や理屈で測れないガバナンスや社会の違和感をnoteに綴っています。 4月以降、noteマネーに4月以降、104記事選出(最新:9/5 ニチコン)。 業界の裏側を知る独自のフィルターを通した「本音の考察」をお届けします。

あれっ、12歳のラジカセからradikoまで?

 

【 12歳のラジカセからradikoまで――『わたしとラジオ』8つの記憶 】


1975年。

山梨県大月市で小学6年生だった私のそばに、ソニーのラジカセ「STUDIO1980」があった。

ラジオから流れてくる曲をカセットテープに録音して、何度も聴いた。

 

それから約50年。

いまはスマートフォンを手に、radikoでラジオを聴いている。

今回、radiko×noteの「#わたしとラジオ」をきっかけに、自分とラジオとの関係を一つずつ振り返ってみた。

最初は、一つか二つ昔話を書けば終わると思っていた。

ところが、記憶をたどっていくと、次々にラジオが出てきた。

 

12歳のラジカセ。
高校時代の深夜放送。
大学時代のユーミン。
車の中。
そして、いま毎週聴いている山下達郎さん。

気づけば8本になった。
そこで最後に、「私とラジオの約50年」を、8つの記事でもう一度たどってみたい。


1.ソニー「STUDIO1980」――ラジオの向こうに、まだ知らない世界があった

1975年、小学6年生。
ラジオから流れる沢田研二さんや太田裕美さんを、カセットテープに録音していた。

自分で検索することのできない時代。


知らない曲が、向こうからやってくる。

振り返ってみれば、私が初めて「外の世界」を知った入口には、ラジオがあったのかもしれない。

→ 1.「ソニー『STUDIO1980』」
https://note.com/tsuruichipooh/n/n8159d390b729


2.山下達郎の「サンデー・ソングブック」――50年後も、知らない音楽に出会う

そして現在。
毎週日曜日の午後2時になると、radikoで山下達郎さんの「サンデー・ソングブック」を聴く。

オールディーズ、ドゥーワップ、ソウル。
自分では検索しなかったであろう音楽が流れてくる。

 

12歳だった私と、実はあまり変わっていない。
知らないから、聴く。

ラジオは今も、知らない音楽を連れてきてくれる。

→ 2.「山下達郎の『サンデー・ソングブック』」
https://note.com/tsuruichipooh/n/n37b4c1ee701d


3.中島みゆきの「オールナイトニッポン」――歌ではなく、「人」を聴いた

高校時代。
月曜日の深夜に聴いた、中島みゆきさんの「オールナイトニッポン」。

シリアスな歌を歌う人だと思っていた。
ところが、ラジオから聞こえてきたのは、明るく、よく笑い、よくしゃべる中島みゆきさんだった。

 

「あれっ、本当に同じ人?」
歌手の作品だけでは分からない、その人のもう一つの顔。

ラジオは、「歌」を好きになるだけでなく、その向こうにいる「人」を好きにさせるメディアだったのかもしれない。

→ 3.「中島みゆきの『オールナイトニッポン』」
https://note.com/tsuruichipooh/n/n42dc6f2cdc12


4.福山雅治の「福のラジオ」――知っていた歌を、半世紀後に再発見する

2023年。
「福のラジオ」から、福山雅治さんが歌う、さだまさしさんの「雨やどり」が流れてきた。

1977年に流行った曲だから、もちろん知っている。

 

ところが改めて聴くと、
「あれっ、この歌、このあとどうなるんだっけ?」
と思った。

若い頃はメロディーを聴き、歳を重ねてから物語を聴く。

曲は変わっていない。
変わったのは、聴いている自分だった。

ラジオは、知らない音楽だけでなく、「知っていたはずの音楽」にも再会させてくれる。

→ 4.「福山雅治の『福のラジオ』」
https://note.com/tsuruichipooh/n/n129daf7e8f35


5.松任谷由実の「オールナイトニッポン55時間スペシャル」――ラジオが40年前の自分を連れてくる

2023年2月。
ラジオからユーミンの声が聞こえてきた。

すると、1982年の自分が戻ってきた。


大学に入学した年。
国立の街。
兼松講堂。
一橋祭で見たユーミン。

 

ラジオは、外の世界へ連れていくだけではない。歳を重ねると、自分の過去へも連れていってくれる。

昔に戻るのではない。
今の自分が、昔の自分に会いに行く。

→ 5.「松任谷由実の『オールナイトニッポン55時間スペシャル』」
https://note.com/tsuruichipooh/n/n00c23ad20f96


6.坂本美雨の「ディア・フレンズ」――曲から、人へ。人から、考え方へ

「ディア・フレンズ」で聞いた、いきものがかり・水野良樹さんの話。

そこから「HIROBA」という活動を知り、異分野の人との出会いについて考え、気がつけば野中郁次郎先生の知識創造理論の「場」にまで考えが広がっていた。

最初から、そこへ行くつもりはなかった。

 

ラジオを聴く。
「あれっ?」と思う。
少し調べる。

また別の世界が見える。

曲から、人へ。
人から、考え方へ。

ラジオは、音楽以外の「まだ知らない世界」にも連れていってくれる。

→ 6.「坂本美雨の『ディア・フレンズ』」
https://note.com/tsuruichipooh/n/n168e7ed5d541


7.車の中のラジオ――人生の「空白時間」に寄り添っていた

大学時代。
仕事へ向かう途中。
仕事から帰る途中。
どこかへ遊びに行く途中。

振り返ると、人生には「目的地と目的地の間」がずいぶんあった。

そして、そこにはラジオが流れていた。

 

何かを学ぶわけでもない。
成果を出すわけでもない。
ただ、聞き流している。

でも、ラジオが空白を埋めてくれたのではない。

ラジオがあったことで、むしろ「空白のままでいられた」のかもしれない。

人生の本番と本番の間。
名前のつかない移動時間。
そこにも、ちゃんと自分の人生は流れていた。

→ 7.「人生の移動時間には、いつもラジオが流れていた?」
https://note.com/tsuruichipooh/n/nc951f6365d12


8.ラジオの価値――「予定外」との出会い

そして最後に、約50年間を振り返った。

1975年のSTUDIO1980。
2026年のradiko。

 

機械も聴き方も、まったく違う。
それでも変わっていないものがある。

自分で選んでいない曲が流れる。
知らない人が話す。
忘れていた歌に出会う。
昔の自分を思い出す。
知らなかった考え方に触れる。

ラジオには、「予定外」がある。
だから私は最後に、こんな「あれっ?」を持った。

ラジオは本当に「古いメディア」なのだろうか。

→ 8.「あれっ、ラジオは本当に『古いメディア』なのだろうか?――12歳のラジカセからradikoまで」
https://note.com/tsuruichipooh/n/n25b014c04ce6


8本を書いて、初めて気づいたこと

8本を書き終えて、改めて並べてみた。

すると、私がラジオから受け取っていたものは、音楽だけではなかった。

 

12歳のときには、外の世界。
大人になってからは、知らない音楽。

深夜放送では、歌手の素顔。
歳を重ねてからは、昔の歌との再会。

そして、昔の自分との再会。
さらに、人の考え方や、人生の余白。

ラジオとの付き合い方も、自分の年齢と一緒に変わっていたのである。


「探す」ことと、「出会う」こと

この8本を書きながら、何度も考えたことがある。

今は、とても便利な時代である。


聴きたい曲は検索できる。
見たい映像も探せる。
知りたいことも、すぐに調べられる。
AIに聞けば、知らなかったことまで教えてくれる。

 

でも、検索するためには、何を探すかをある程度知っていなければならない。
知らないものは、検索できない。

 

ラジオは違う。
こちらが頼んでいないものを、向こうから届けてくる。

それが、ときどき人生に残る。


あれっ、50年を振り返ると、いつもどこかでラジオが流れていた?

このシリーズを書き始めるまで、私は自分を「熱心なラジオリスナー」だとは、それほど意識していなかった。

けれど、記憶を一つずつ掘り起こしてみると、いろいろな場所にラジオがいた。

 

小学6年生の部屋。
高校時代の深夜。
大学時代。
車の中。
そして、いまの日曜日の午後2時。

 

あれっ。
50年を振り返ると、いつもどこかでラジオが流れていたのではないだろうか。

人生には、こちらから探しに行ったものだけではなく、偶然向こうからやってきたものがある。

 

一曲の音楽。
誰かの声。
一つの言葉。
思い出していなかった記憶。
そこから始まった「あれっ?」。

 

もしかすると、ラジオは私に何かを教えてくれたのではなく、
「まだ知らないものがあるよ」
と、50年間ずっと教えてくれていたのかもしれない。

12歳の頃、ラジオの向こうには、まだ知らない世界があった。

 

そして今も、
ラジオの向こうには、まだ知らない世界がある。

 

「ラジオの向こうに、まだ知らない世界があった」マガジン
https://note.com/tsuruichipooh/m/md360599d730a
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同note https://note.com/tsuruichipooh
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あれっ、課徴金支払いで「会計・開示上の問題」は一区切り?


【 I-ne:課徴金納付命令 】

 

金融庁の600万円で「会計・開示上の問題」は一区切り?

 

2026年9月17日、I-neは、金融庁から課徴金600万円の納付命令を受けたことを公表した。

対象となったのは、2022年12月期の有価証券報告書において、本来「関連当事者との取引」として記載すべき事項を注記しなかった問題である。

 

6月には証券取引等監視委員会から課徴金納付命令の勧告が行われ、7月にはI-neが事実と課徴金額を認める答弁書を提出していた。

したがって、今回の600万円の納付命令自体は、突然出てきた新しい問題ではない。

むしろ、会社に対する金融商品取引法上の手続が、一つの区切りを迎えたものと考えた方がよいだろう。

 

では――。
金融庁の600万円で、I-neの「会計・開示上の問題」は一区切りしたのだろうか。

今回、あれっと思ったのは、この点である。


1.「600万円」という数字だけを見ると

今回、I-neに命じられた課徴金は600万円である。

会社はすでに2026年12月期第2四半期決算において600万円を特別損失として計上しており、今回の決定による追加的な業績への影響はないとしている。
業績面だけを見れば、大きな問題ではないようにも見える。

しかし、本件を「600万円の損失」で捉えると、本質を見誤るように思う。
問題は600万円という金額ではない。

金融庁が問題としたのは、2022年12月期有価証券報告書に、記載すべき重要な事項が欠けていたことである。

つまり、有価証券報告書という投資家の判断の基礎になる書類について、法令上必要な情報が記載されていなかったことが正式な行政処分の対象になったのである。


2.会社は事実と課徴金額を認めている

今回の手続で重要なのは、I-neが争った末に金融庁が判断を示した、という構図ではないことである。

金融庁は7月3日に審判手続開始を決定した。
これに対してI-neは、課徴金の対象となった事実と、納付すべき課徴金の額を認める旨の答弁書を提出した。

その後、審判官から課徴金納付を命じる決定案が提出され、今回、金融庁が600万円の納付命令を決定した。

したがって、少なくとも会社に対する課徴金手続については、
「関連当事者取引の注記が必要だったのかどうか」
を今後争う局面ではなくなった。

この意味では、会社の有価証券報告書に関する金融庁の行政手続は、一つの区切りを迎えたと考えられる。


3.しかし、600万円で「全部終わり」ではない

一方で、ここで「ああ、600万円を払って終わりなのか」と考えるのは早い。

I-neを巡っては、少なくとも三つの異なる問題を分けて考える必要がある。

(1) 会社に対する有価証券報告書の不記載問題
これについては、金融庁が600万円の課徴金納付命令を決定した。

(2) 役員個人を巡る問題
6月26日の証券取引等監視委員会の勧告では、会社に対する600万円とは別に、同社役員について4,205万円の課徴金納付命令を出すよう勧告されている。
その理由は、重要事項が欠けていた有価証券報告書を参照書類とする目論見書を使用した株式売出しに関するものである。

(3) 東京証券取引所の問題
こちらは、さらに性格が違う。


4.金融庁の600万円と東証の3,360万円は別物

I-neは6月、東京証券取引所から、宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入りと、3,360万円の上場契約違約金の徴求を受けている。

金融庁の600万円と、東証の3,360万円。
数字だけを見ると、同じ一連の不祥事に対する二つの「罰金」のようにも見える。

しかし、その意味は大きく異なる。
金融庁の600万円は、金融商品取引法に基づく課徴金である。

一方、東証の3,360万円は、上場会社としての宣誓書違反によって市場に対する株主・投資者の信頼を毀損したことを理由とする上場契約違約金である。

そして東証は、違約金を徴求するだけでは終わらせていない。
I-neを「宣誓書違反による再審査に係る猶予期間」に入れている。
猶予期間は、2026年6月18日から2027年6月18日までである。

つまり、プライム市場に上場し続ける会社としての適格性そのものが、改めて問われているのである。


5.なぜ「注記漏れ」がここまで大きな問題になったのか

そもそも本件の発端は、関連当事者取引の注記不記載であった。

これだけを見ると、
「会計上の注記を一つ漏らした」
という話に見えてしまう。

しかし、東証が公表した内容を読むと、本件はそれだけではない。

問題となった取引先と代表取締役社長との関係。取締役会や監査等委員会、会計監査人への情報提供。
さらに、プライム市場への市場区分変更審査において東証にどのような説明がなされていたのか。

こうした問題が積み重なった結果、単なる注記漏れから「宣誓書違反による再審査」にまで発展したのである。

以前、この問題について私は、
「注記漏れというよりガバナンスの問題?」
と書いた。
今回の600万円の課徴金納付命令を見ても、その印象は変わらない。
むしろ、よりはっきりしたように思う。


6.金融庁が見ているもの、東証が見ているもの

ここは、本件を理解する上で興味深いところである。

金融庁は、金融商品取引法に基づき、有価証券報告書に「記載すべき重要な事項」が記載されていたかを見る。

一方、東証は、上場規程に基づき、市場区分変更審査における宣誓が適切だったのか、そして上場会社としての適格性があるのかを見る。
同じ事案を見ていても、制度上の視点が違う。

だからこそ、
金融庁の課徴金手続が終わることと、東証の問題が終わることは同じではない。

会社に対する600万円の納付命令は一つのゴールかもしれない。
しかし、東証から見れば、むしろ「ここから」が重要なのではないか。


7.本当に見るべき数字は「600万円」ではなく「2027年6月18日」?

そう考えると、投資家が注目すべき数字も変わってくる。
600万円でもない。
3,360万円でもない。

私が気になるのは、
2027年6月18日
という日付である。

これは、東証が設定した再審査に係る猶予期間の期限である。

I-neはこの期間に、プライム市場の新規上場基準に準じた審査への対応など、上場継続に向けた対応を進めることになる。

問われるのは、過去の誤りについて説明したかだけではない。

関連当事者取引を適切に把握できる仕組みになったのか。
経営トップに関する情報であっても、取締役会や監査等委員会に正しく上がる仕組みになったのか。
監査等委員会が執行側から独立して事実を検証できるのか。
内部通報制度が実際に機能するのか。
そして何より、都合の悪い事実でも、取締役会、会計監査人、東証、投資家に正しく伝えられる会社になったのか。

問われるのは、こちらではないだろうか。


8.「払ったから終わり」と「問題が解決した」は違う

企業不祥事の開示を見ていると、課徴金や罰金、違約金といった数字に目が向きやすい。
数字が確定すると、一件落着したようにも見える。

しかし、
ペナルティが確定することと、原因が解消されることは同じではない。

今回の600万円は、過去の有価証券報告書の不記載について、金融庁の行政手続が一つの区切りを迎えたことを示している。

一方、I-neが上場会社としてどのようにガバナンスを立て直し、市場の信頼を取り戻すのかという問題には、まだ答えが出ていない。
その答えを出すための時間が、2027年6月18日までの猶予期間なのかもしれない。


9.あれっと思ったこと

今回の開示を最初に見たとき、
「600万円の課徴金が正式に決まったのか」
と思った。

しかし、これまでの経緯を並べ直してみると、少し見え方が変わる。

金融庁の600万円で、
会社に対する有価証券報告書の不記載という行政手続は一区切り。

しかし、
I-neのガバナンス問題まで一区切りしたわけではない。

むしろ今後問われるのは、
「いくら払ったか」
ではなく、
「会社がどう変わったか」
なのではないだろうか。

上場会社のガバナンスは、課徴金を納付すれば元に戻るものではない。

失われた信頼を取り戻すのは、制度ではなく、その後の会社の行動である。

だから今回、あれっと思った。
金融庁の600万円で「会計・開示上の問題」は一区切り?

「一区切り」ではあっても、「一件落着」ではない。
私は、そのように受け止めている。


参考資料
・株式会社I-ne「金融庁による課徴金納付命令の決定についてのお知らせ」(2026年9月17日)
・金融庁「(株)I-neにおける有価証券報告書の不記載に対する課徴金納付命令の決定について」(2026年9月17日)
・証券取引等監視委員会「株式会社I-neにおける有価証券報告書の重要な事項の不記載及び同社役員が所有する同社株式の売出しに係る目論見書の重要な事項の不記載に係る課徴金納付命令勧告について」(2026年6月26日)
・東京証券取引所「宣誓書違反による再審査に係る猶予期間入り及び上場契約違約金の徴求:(株)I-ne」(2026年6月18日)

 

※本稿は、公表されている資料をもとに筆者個人の見解をまとめたものであり、特定の企業・個人を非難することを目的とするものではありません。また、法務・会計・投資その他の専門的助言を提供するものでもありません。事実関係や制度の解釈については、各社・各当局の公表資料等をご確認ください。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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あれっ、資本金を1億円に減資?


【 はてな:資本金1億円に減資 】

 

あれっ、なぜ資本金を「ちょうど1億円」にするのか?
――はてなの減資、「資本政策の柔軟性」だけが理由なのだろうか


IRご担当者さま、今回の減資について、もう一歩だけ背景を説明していただけると、株主にはより分かりやすかったように感じます。

2026年9月18日、はてなは「資本金の額の減少に関するお知らせ」を公表した。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/3930/tdnet/2886293/00.pdf

 

現在の資本金2億5,064万2,600円のうち、1億5,064万2,600円を減らし、
資本金を1億円ちょうどにする。

減少額は全額をその他資本剰余金に振り替えるため、発行済株式数にも純資産総額にも変化はない。

 

会社が説明する目的は、
「今後の資本政策の柔軟性及び機動性を確保すること」
である。

もちろん、それ自体は合理的な説明である。

しかし、ここで私は少し「あれっ?」と思った。

なぜ、2億円でも1億5,000万円でもなく、「ちょうど1億円」なのだろうか。


1.これは「会社のお金が減る減資」ではない

まず確認しておきたい。

今回の減資は、会社から1億5,064万円のお金が外部に流出するものではない。

資本金という勘定科目から、その他資本剰余金という勘定科目へ振り替えるだけである。

したがって、
資本金 2億5,064万円 → 1億円
となる一方、
純資産総額は変わらない。

 

会社自身も「貸借対照表の純資産の部における勘定科目の振替処理」であり、純資産額にも業績にも影響しないとしている。

では、なぜわざわざ株主総会決議まで経て、資本金を減らすのか。


2.会社が説明するのは「資本政策の柔軟性」

資本金とその他資本剰余金は、同じ純資産でも使い勝手が異なる。

資本金は会社法上、比較的拘束の強い勘定である。

これをその他資本剰余金へ振り替えることで、将来の資本政策について選択肢を広げることができる。

 

したがって、
「資本政策の柔軟性及び機動性を確保する」
という会社の説明そのものに不自然さがあるわけではない。

私が気になるのは、その「金額」である。


3.なぜ「1億円」という数字なのか

日本の法人税制では、資本金1億円という数字が一つの重要な境界線になっている。

例えば法人事業税の外形標準課税では、従来から資本金1億円超の法人が主要な対象とされてきた。

つまり、
1億円と1億1円では、税務上の位置付けが変わり得る。

 

そう考えると、
2億5,064万円から、

2億円でもなく、
1億5,000万円でもなく、
1億円ちょうどまで減らす

という判断には、どうしても目が止まる。

 

もちろん、今回のIRには「税負担を軽減するため」とは一言も書かれていない。

したがって、税務目的だったと断定することはできない。

しかし、税制上「1億円」が意味を持つ以上、

税務上の効果も含めて資本構成を検討したのではないか

と考えること自体は、それほど不自然ではないだろう。


4.ただし、「1億円にすれば外形標準課税から外れる」は今では単純すぎる

ここは重要である。

かつて、上場企業が資本金を1億円以下まで減らす「1億円減資」が相次ぎ、税負担との関係が議論された。

そのため税制も見直されている。

現在は、前事業年度に外形標準課税の対象だった法人について、期末資本金を1億円以下にしても、

資本金+資本剰余金=払込資本が10億円を超える場合

などには、引き続き外形標準課税の対象となる仕組みが設けられている。

 

つまり、
資本金を1億円にした
=
自動的に外形標準課税から外れる
という単純な話ではない。

だからこそ今回の減資についても、「節税目的だ」と決めつけるのは適切ではない。


5.それでも、「なぜ1億円なのか」という疑問は残る

ここが今回のIRで最も興味深いところである。

会社が本当に必要としているのが、
「資本政策の柔軟性」
だけなのであれば、
資本金を1億2,000万円にしても、
1億5,000万円にしても、
一定程度の柔軟性は得られるはずである。

それを、
100,000,000円
という、税制上も意味を持つ数字まで下げる。

 

しかも会社の説明では、その数字を選んだ理由には触れていない。

すると株主としては、
資本政策上の柔軟性に加えて、税務上のメリットも検討したのではないか。
という疑問を持つ。

これは会社を批判するという話ではない。

むしろ、合法的に税負担を最適化できるのであれば、それも経営判断の一つである。

問題は、株主から見ると「なぜ1億円なのか」が開示だけでは分からないことである。


6.税務メリットがあるなら、それ自体は悪いことなのか

私は必ずしもそうは思わない。

企業経営において、税負担を含めた資本効率を考えるのは当然である。

税制上認められた範囲内で資本構成を見直し、キャッシュアウトを減らせるのであれば、その分を成長投資や株主還元に回すこともできる。

 

むしろ株主として知りたいのは、
「減資すること」そのものではなく、「減資によって何が変わるのか」
である。

資本政策の自由度が上がる。
税務面にも影響する可能性がある。

将来の配当や自己株取得などにも使いやすくなるかもしれない。

そうした全体像まで説明されれば、株主にとって今回の減資の意味はずっと理解しやすくなる。


7.「柔軟性」という便利な言葉の先を知りたい

上場企業のIRを読んでいると、
「財務体質の強化」
「資本効率の向上」
「機動的な資本政策」
といった表現をよく目にする。

いずれも間違った言葉ではない。

 

しかし、その言葉だけでは、
経営陣が具体的に何をしようとしているのか
までは見えてこないことがある。

今回のはてなの減資も同じように感じる。

資本金を2億5,064万円から、
1億円ちょうどにする。

そこまで具体的な数字を決めた以上、その数字には何らかの合理性があるはずである。

 

会社が説明する「資本政策の柔軟性」だけなのか。
税務面も含めた資本効率の改善なのか。
あるいは、その先に別の資本政策を想定しているのか。

今後の開示を見ていきたい。


あれっと思ったこと

「今後の資本政策の柔軟性及び機動性を確保するため」
その説明は分かる。

しかし――
本当に目的は“資本政策の柔軟性”だけなのだろうか。

 

そして何より、
なぜ、資本金を「ちょうど1億円」にするのか。

減資そのものよりも、
その「1億円」という数字の意味を考える方が、
今回のIRの本質に近づけるような気がした。

 

参考資料
・株式会社はてな「資本金の額の減少に関するお知らせ」(2026年9月18日)
・東京都主税局「外形標準課税の対象法人の見直し」
・財務省「令和6年度税制改正の大綱」

 

※本稿は、公表資料等をもとに筆者個人の見解として整理したものであり、株式会社はてなの減資目的が税務上のメリットにあると断定するものではありません。また、税務・会計・法務上の助言や、特定の有価証券の売買を推奨するものでもありません。実際の税務上の取扱いは、各事業年度の資本金、資本剰余金、株主構成その他の条件によって異なります。
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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あれっ、政策保有株式の縮減?


【 ハイレックス:政策保有株式の売却 】

 

――約160億円の政策株売却。その資金は、いつ利益と株主還元につながるのか


政策保有株式の縮減が進んでいることを、一株主として前向きに受け止めている。今回は、公表されている資金配分計画と、その先の成果について考えてみたい。

 

私は、キャッシュリッチで低PBRだったことに着目して同社株式を取得し、継続保有している。

2026年9月18日の終値は2,529円だった。7月末の連結自己資本と自己株式を除く期末株式数から計算した1株当たり純資産は約5,868円であり、これを使ったPBRは約0.43倍となる。資産に対する市場の評価は、なお低い水準にある。

 

ただし、このPBRは7月末の財務数値を使った試算で、8月以降の自社株買いなどは反映していない。また、純資産額は、そのまま株主が受け取れる金額ではない。

 

資産の厚さには、今も魅力を感じる。ただ、保有を続けるうえで気になるのは、その資産がいつ、どのように株主価値につながるのかという点である。


1.政策株の売却は、着実に進んでいる

同社は2026年9月8日、政策保有株式の追加売却を公表した。

今回の売却額は14.55億円、売却益は14.11億円。これにより、今期累計では3銘柄を売却し、売却総額は159.88億円、売却益は153.43億円となった。

長年保有してきた株式を現金化し、資金の使い道を選び直せるようにする。これは評価したい動きである。

 

もっとも、約160億円は今期累計の売却代金であり、全額がこれから自由に使える余剰現金として残っていることを意味しない。税負担や、すでに実行された投資・資金配分も考慮する必要がある。


2.会社は、すでに資金配分計画を示している

ここは、正確に押さえておきたい。

同社は7月10日、2026~2029年度の中期キャッシュアロケーション、すなわち資金配分計画を公表している。主な支出計画は以下のとおりである。

 

資金の使い道:計画額
経常投資:400億円
成長投資:270億円
構造改革:100億円
株主還元:120億円
M&A:230億円

 

M&Aには実施済みのアクト株式取得133億円を含む。また、営業キャッシュフローを年間20億円増加させる目標も示されている。

これらは営業活動や借入なども含めた4年間の全体計画であり、約160億円の売却代金だけを配分するものではない。株主還元120億円も、今期に一括して支払う金額ではない。

私が次に知りたいのは、この計画が年度ごとにどう実行され、どの投資が、どれだけの利益やキャッシュフローを生むのかである。


3.売却益と、本業で稼ぐ力は分けて見る

政策保有株式の売却益は、今期の利益を押し上げる。しかし、同じ株式を翌年も売って利益を得ることはできない。

また、上場株式の含み益は、従来から連結純資産に反映されていた部分がある。売却益の全額が、新たな株主価値として上乗せされたわけではない。

同社の第3四半期累計の営業利益は38.82億円、営業利益率は約1.2%である。一方、親会社株主に帰属する純利益408.42億円には、買収に伴う負ののれん発生益や有価証券売却益が大きく含まれる。

9月18日の終値を、会社予想の1株当たり純利益996.89円で割ると、予想PERは約2.54倍になる。ただ、この低さには一時的な利益の影響が大きい。毎年同じ利益を稼げると考えて、割安さを判断することはできない。

 

本業にも改善は見られる。会社説明では、統合前事業の日本・米国・欧州で収益が改善している。一方、中国の販売不振、韓国の失注、メキシコの労務費率上昇などが重荷となっている。改善が全社の収益力として定着するかを見たい。

だからこそ、私が追いかけたいのは、現金化した資産を使って、本業の利益率をどこまで引き上げられるのかという点である。

保有株式からの配当収入が減ることも踏まえ、投資による利益増加や借入返済による利払い減少などを合わせて評価したい。


4.投資と構造改革は、具体的に動き始めている

期待につながる開示も、具体的に出ている。

8月3日の開示では、国内の自動車事業の生産体制を13拠点から11拠点へ再編し、三田工場と三ヶ日工場の生産を段階的に他拠点へ移管する計画が示された。2027年度に着手し、2028年度中の完了を目指す。単に拠点を減らすだけでなく、製品・機能ごとに集約して生産効率を高める取り組みである。

海外でも、米国1拠点の閉鎖を伴う構造改革とメキシコへの生産移管を計画している。また、中国・蘇州では、顧客との連携や開発速度の向上を目的とする技術センターの設立を決議し、2026年9月の設立・事業開始を予定している。

 

9月4日、同社はドアモジュール製品の国内初受注に伴い、約12億円の設備投資を決定した。買収したハイレックスアクトの九州工場を活用し、閉鎖したスペイン工場の設備を移設する。稼働開始予定は2028年12月である。

買収した会社の拠点と、従来の技術・設備を組み合わせ、受注につなげた点は前向きに受け止めたい。

このように、実行内容や時期は見えてきている。ただし、投資の実行から利益貢献までには時間がかかる。国内再編に伴う一時費用・必要投資額・収益改善効果は、8月3日の開示では引き続き精査するとされている。ドアモジュールについても、受注の採算や投資回収の見通しまでは示されていない。

顧客との守秘義務に配慮しつつ、新たな事業がいつ利益に貢献し、どの程度の収益を目指すのか。そうした説明が積み重なれば、株主も待つ理由を持ちやすくなる。


5.取締役会には、計画と実績をつなぐ説明を期待したい

株主還元も実行されている。9月7日の開示によれば、同社は60万500株、約15億円の自社株買いを完了した。

今期の年間配当予想は80円で、9月18日終値に対する年額ベースの利回りは約3.16%となる。ただし、80円には記念配当27円が含まれ、普通配当53円だけで計算すると約2.10%である。今期の還元を評価しつつ、記念配当を除いた継続的な還元水準も確認したい。

 

なお、年間80円には支払い済みの中間配当53.5円を含み、これから予定される期末配当は26.5円である。現在の株価で新たに購入すれば、今期80円すべてを受け取れるという意味ではない。

私は、成長投資にも株主還元にも、それぞれ意義があると考える。その配分の妥当性を判断するために、取締役会から次のような説明があるとありがたい。

 

・成長投資・構造改革は、一時費用も含め、年度ごとにどの程度の利益や資金回収につながる見込みなのか。
・株主還元120億円の計画は、配当と自社株買いを通じて、どこまで進んでいるのか。
・投資案件が遅れたり、十分な採算が見込めなくなったりした場合、資金配分をどう見直すのか。

 

将来を正確に言い当ててほしいということではない。前提を示し、実績との差を説明し、必要なら計画を修正する。その過程を株主と共有してほしいのである。

社外取締役には、経営陣の投資計画について、期待収益とリスク、株主還元を含む他の選択肢を比較し、その後の成果まで確認する役割を期待したい。

これは、取締役会でそうした議論が行われていないと断定するものではない。公開情報を読む株主として、判断の根拠と進捗がさらに見えることを望んでいる。


6.MBO・TOBへの期待を、経営評価の代わりにしない

資産が厚く、株価の評価が低い会社を見ると、MBO・TOBの可能性も気になる。

しかし、今回の政策株売却の開示に、非公開化を検討しているとの記載はない。売却が進んだことだけで、MBOの準備だと読むことはできない。

一株主としてまず確認したいのは、上場を続ける場合に、この会社がどのように株主の期待に応えていくのかである。


7.あれっと思ったこと

約160億円の政策株売却は、評価できる実行である。会社は、投資・改革・還元の計画を示し、自社株買いや具体的な再編・投資にも動いている。

ここから先は、その計画を成果で確かめていく段階なのだと思う。

 

「約160億円の政策株売却を含む資金配分を、年度ごとに、どれだけの持続的な利益と株主還元につなげるのか」

 

この問いに、年度ごとの実績と、必要に応じた計画の見直しで応えてほしい。

私自身も、資産が多いという取得時の理由にとどまらず、その資産がどう使われたかを見ながら、保有する意味を確かめていきたい。

 

※本稿は、2026年9月18日までに確認した公開資料に基づく筆者個人の見解であり、現在・過去の所属先を代表するものではありません。筆者は執筆時点でハイレックスコーポレーション株式を保有しています。特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではなく、将来の業績・株価やMBO・TOBの実施を予測・保証するものでもありません。株価は同日の終値を用い、指標の一部は会社公表値から筆者が計算しています。数値・見通しは今後変更される場合があります。
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あれっ、“使い方”を逆輸入?

 

【 株式会社ほぼ日:連結決算への移行 】

 

ほぼ日手帳、“使い方”の逆輸入?
――北米で広がった「ジャーナリング」が日本へ戻ってくる


今回の連結決算への移行をきっかけに、あらためて「ほぼ日手帳」の海外展開を調べてみた。
すると気になったのは、北米で売上が伸びていることだけではなかった。

日本で生まれた商品が海外へ渡り、海外のユーザーによって新しい使い方が広がり、それが再び日本へ紹介されている。
そんな循環が始まっているように見えるのである。


1.「ほぼ日手帳」は、いつの間にか世界の商品になっていた
2026年版のほぼ日手帳は、発売から5か月で販売部数100万部を突破した。
特に伸びているのが北中米・欧州である。海外販売部数は2021年版から2026年版までの5年間で約2倍、海外売上比率は2025年版で52%に達したという。


そして2026年6月には、米国子会社Hobonichi Inc.への増資によって同社が特定子会社となり、ほぼ日は2026年8月期から連結決算へ移行する。
もはや「日本でつくった手帳を海外にも販売している」という段階を超えつつあるように見える。


2.北米で起きた「手帳」の意味の変化
興味深いのは、なぜ北米でここまで支持されたのか、である。
小泉絢子社長は、コロナ禍を契機として北米を中心にジャーナリングのムーブメントが広がったことを、海外成長の大きな要因として挙げている。


予定を書くのではない。
その日の気持ちを書く。
絵を描く。
写真やシールを貼る。
自分自身と向き合う。
そんな使い方である。


Instagramでも「#hobonichi」の投稿は2023年から2025年までの2年間で3.8倍になり、ジャーナリングやイラスト、写真など、さまざまな使い方が共有されている。
考えてみれば、「1日1ページ」というほぼ日手帳は、もともとこの用途と相性がいい。
スケジュール帳というより、人生を残すノートなのである。


3.面白いのは、その使い方が日本へ戻ってきていること
ここで「あれっ?」と思った。
ほぼ日の日本向けサイトを見ると、海外ユーザーの使い方が積極的に紹介されている。
たとえば米国ユーザーが夫婦で1冊を共有する「交換手帳」や、カリグラフィーや勉強に使う例など、日本ではあまり見かけない使い方まで公式コンテンツとして取り上げられている。


ほぼ日手帳公式サイトも、現在は手帳を単なる予定管理の道具ではなく、
「LIFEのBOOK」
として、自分の生活やスタイルに合わせ自由に使うものだと強く打ち出している。


もちろん、この考え方そのものは昔から「ほぼ日手帳」が持っていたものである。
したがって、北米で生まれた考え方をそのまま日本へ輸入した、という意味ではない。


4.「逆輸入」ではなく「増幅して戻ってきた」のかもしれない
むしろ、こう考える方がしっくりくる。
日本で、
「1日1ページ、自由に使える手帳」
が生まれた。
それが北米へ渡り、ジャーナリング文化と出会った。


海外ユーザーが、
書く、描く、貼る、記録する、共有する
という使い方をさらに発展させ、それをSNSで世界中に発信した。
そして今、その海外ユーザーの使い方を、今度は日本の公式サイトやガイドブックが紹介している。


つまり、
日本 → 北米 → 日本
である。
商品の逆輸入ではない。
「使い方」の逆輸入なのである。


5.これは、海外展開の面白い形ではないか
一般に海外展開というと、日本の商品を現地に合わせてローカライズすることを考える。
しかし、ほぼ日手帳では少し違う現象が起きているように見える。
企業が「こう使ってください」と決めるのではなく、海外ユーザーが自分たちで使い方を生み出す。


企業はそれを見つけ、紹介し、さらに世界のユーザーへ返していく。
小泉社長自身、米国の利用者から「HOBONICHIいい!」という反応が届いていることや、海外顧客との接点を手帳以外にも広げていく可能性について語っている。
これは単なる輸出ではなく、ユーザーと一緒にブランドを育てるグローバル化なのかもしれない。


6.あれっと思ったこと
日本で生まれた「ほぼ日手帳」が北米へ渡った。
北米では、ジャーナリング文化と結びつき、当初想定していた以上に自由な使い方が広がった。
そして今、その使い方が日本でも紹介されている。
日本の商品を海外へ売る。
普通なら、そこで話は終わる。


しかし「ほぼ日手帳」は、
日本で生まれる
→ 海外で育つ
→ 日本へ戻ってくる
という循環に入り始めているようにも見える。


今回の米国子会社の本格稼働と連結決算への移行は、その循環をさらに大きくする第一歩なのだろうか。
「海外で売れた」の次に、「海外から何を学び、日本の商品やサービスに戻していくのか」。
そこにも、これからの「ほぼ日」を見る面白さがありそうである。

 

※本稿は、株式会社ほぼ日が公表したIR資料、同社公式サイト、公開されているインタビュー等をもとに、筆者個人の見方を整理したものである。「使い方の逆輸入」という表現は同社が公式に示したものではなく、公開情報から筆者が考察したものである。特定の企業・商品への投資、購入その他の行動を推奨するものではない。
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あれっ、保有株式を全て売らない理由?

 

【 akippa:DeNAが全て売らない理由 】


二度売っても、まだ残す?
――2019年に一度売り、2026年のIPOでも売る。それでもDeNAがakippa株を残す理由は?


主要株主の異動に関する開示を見て、「DeNAがどれだけ売ったか」以上に、「なぜ全部売らなかったのか」が気になった。


1.公開価格570円に対し、初値は1,244円

2026年9月18日、akippa株式会社は東京証券取引所スタンダード市場に上場した。

公開価格は570円。

しかし朝から買い気配が続き、初値がついたのは後場に入ってから。初値は1,244円となり、公開価格を674円、率にして118.25%上回った。

その直後には1,315円まで上昇。その後は利益確定売りなどもあったとみられ、上場初日は1,061円で取引を終えた。公開価格570円に対しては、なお約86%高い水準である。

 

上場時の発行済株式数は6,262,140株なので、単純計算すると、
・公開価格570円時点:約35.7億円
・初値1,244円時点:約77.9億円
・初日終値1,061円時点:約66.4億円

の時価総額となる。上場初日に、市場が公開価格を大きく上回る価格をつけたことになる。上場時発行済株式数や公開価格はJPXの資料でも確認できる。


2.DeNAは今回、保有株の半分以上を売却した

上場前、DeNAはakippa株を978,600株保有し、議決権比率は16.63%。第3位株主であった。

今回のIPOでは、このうち560,500株を売出株として放出している。保有株の約57%である。

9月18日付の「主要株主の異動に関するお知らせ」では、DeNAの所有株式数は307,500株、議決権比率4.91%となり、第5位株主となった。

 

ただし、ここは少し注意が必要である。

通常の売出し後に残る株式は、
978,600株-560,500株=418,100株
である。

開示上の307,500株との差額110,600株は、オーバーアロットメントによる売出しのためSBI証券に10月16日を期限として貸し出している株式である。

つまり、DeNAが今回「全部売った」わけではない。


3.しかもDeNAがakippa株を売るのは、今回が初めてではない

ここで時間を2019年まで戻したい。

DeNAは2019年10月1日にも、当時持分法適用関連会社だったakippa株の一部を譲渡している。

その結果、akippaに対する「重要な影響力」を喪失し、持分法適用を中止した。

 

この取引では、残存株式を公正価値評価した差益18億35百万円を含め、31億85百万円の関連会社株式売却益を計上している。

つまりDeNAのakippaへのEXITは、今回突然始まったものではない。

2019年からすでに始まっていた
と見ることもできる。


4.2019年に前面に出たのはSOMPOだった

一方、その2019年10月にakippaへの関与を強めたのがSOMPOホールディングスである。

SOMPOはakippa株33.5%を取得し、持分法適用関連会社とした。

その後、DeNAとSOMPOの合弁会社であるDeNA SOMPO Carlifeがakippaの総代理店として駐車場オーナー開拓を行うなど、事業面でも関係が続いた。

 

したがって2019年は、
DeNAが資本面で一歩後退する一方、SOMPOが戦略株主として前面に出た
転換点だったように見える。


5.それでも、2026年のIPOで全部売らなかった

そこで、私が今回一番「あれっ?」と思ったところである。

2019年に一度売った。
2026年のIPOでも、さらに保有株の半分以上を売った。

しかもIPOは、未上場株だったakippa株を市場で換金できる大きな機会である。

 

それなら、
なぜDeNAは残りも全部売らなかったのだろうか。

もちろん、DeNAは今回、その理由を具体的に公表しているわけではない。

したがって、ここからは推測になる。


6.今日の初値を見ると、「残した意味」も少し違って見える

本日の初値1,244円は、公開価格570円の2倍を超えた。

仮に通常の売出し後に残る418,100株を初日終値1,061円で単純評価すると、約4.4億円になる。

一方、今回DeNAが売り出した560,500株を公開価格570円で単純計算すると約3.2億円である。

もちろん、売出価格、手取り額、貸株、オーバーアロットメントなどを考慮せず単純比較できるものではない。

 

それでも、
一部を現金化しながら、残した株式については上場後の企業価値向上の恩恵を受ける余地を残したという構造であることは興味深い。

今日の株価上昇はDeNAの意図を証明するものではない。

しかし、「一部売却+一部保有」というEXITの意味を考えるには、象徴的な上場初日になったのではないだろうか。


7.「経営に関与する株」から「成長を見届ける株」へ?

2019年、DeNAはakippaに対する重要な影響力を失った。
2026年、今度は主要株主という立場からも外れた。
それでも株主ではあり続ける。

ここに私は、事業会社によるスタートアップ投資の一つの出口の形を見る。

 

創業期や成長期には、株式を保有しながら事業にも深く関わる。

しかし会社が成長し、新たな戦略株主が現れ、そして上場する。

その過程で、
「経営に関与するために持つ株」から、「成長を見届けるために持つ株」へ。

株式保有の意味そのものが変化していくこともあるのではないだろうか。


あれっと思ったこと

2019年に売った。
2026年のIPOでも売った。
それでもDeNAはakippa株をゼロにはしなかった。

 

しかも本日のIPOでは、公開価格570円に対して初値1,244円。

市場は、少なくとも上場初日には公開価格を大幅に上回る値段をつけた。

 

株式売却を見ると、どうしても、
「なぜ売ったのか?」
に目が向く。

しかし今回、私が気になったのは逆である。
「二度も売ったのに、なぜまだ残したのか?」

 

スタートアップ投資のEXITとは、100%売却して終わるものだけではない。

一部を回収し、一部を残し、会社との距離を少しずつ変えていく。

DeNAのakippa投資は、
2019年から始まった「段階的なEXIT」が、2026年のIPOでもまだ完了していない
と見ることもできるのではないだろうか。

 

そして次に気になるのは、
DeNAは、この残った株をいつまで持つのか。

上場はゴールではない。
DeNAとakippaの資本関係についても、今日が最後ではなく、むしろ次の観察のスタートなのかもしれない。

 

※本稿は、akippa株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー、SOMPOホールディングス株式会社、日本取引所グループ等の公表資料および公開情報をもとに、筆者個人が考察したものである。株式売却や保有継続に関する各社の具体的な意図について、公表されていない部分には筆者の推測を含む。また、上場初日の株価は短期的な需給等によって大きく変動する可能性があり、企業価値そのものを示すものではない。本稿は特定の有価証券の取得・売却を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任で行っていただきたい。
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あれっ、誰がどう検証するのか

 

【 第2次高市改造内閣 】

 

『責任ある積極財政』の“責任”は、誰がどう検証するのか?


2026年9月17日、第2次高市改造内閣は基本方針を閣議決定した。

その冒頭に掲げられたのが、
「責任ある積極財政」
である。

 

政府が一歩前に出て、官民連携の下、日本成長戦略の17の戦略分野を中心に「危機管理投資」「成長投資」を進め、経済成長につなげる。

その方向性自体は明確である。政府は同時に、成長力を高めながら「中長期的な財政の持続可能性も確保する」としている。

 

ここで、あれっと思った。

「積極財政」の意味は分かる。
では、その前に付いている「責任」は、誰が、何をもって確認するのだろうか。


1.「使った金額」だけでは、成果は分からない

政府が成長分野に資金を投じる。

企業でいえば、大型の設備投資やM&A、新規事業への投資に近い。

企業であれば、取締役会で投資を決めた後、
「いくら投資したか」
だけを見て終わることはない。

売上はいくら増えたのか。
利益率は改善したのか。
当初想定した市場を獲得できたのか。
投下資本に見合ったリターンが得られたのか。
想定どおりでなければ、追加投資するのか、計画を修正するのか、撤退するのか。

当然、事後検証が必要になる。


国家の成長投資でも、本来は同じではないだろうか。

予算を確保したことは「成果」ではない。
予算は、成果を生み出すための「投入」にすぎない。


2.高市政権の財政運営には、明確なロジックがある

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」には、一つの考え方がある。

成長分野への政府投資を呼び水として民間投資を増やす。
それによって潜在成長率を引き上げる。
GDPや企業収益、所得が増えれば、税率を引き上げなくても税収増につながる。

そして、経済の分母であるGDPを拡大させることで、政府債務残高の対GDP比を安定的に引き下げていく。

 

政府は実際、財政運営の中核的な目標を「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下」に置き、プライマリーバランスについては複数年で改善・管理していく方向を示している。

これは一つの財政運営の考え方である。
ただし、重要なのはここからだと思う。


3.政府の試算にも「十分な経済成長が実現すれば」と書かれている

2026年7月に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」は興味深い。

試算では、毎年10兆円の追加的な財政支出を想定した場合でも、
「十分な経済成長が実現すれば」
債務残高対GDP比がおおむね安定的に低下する姿が示されている。

 

逆に言えば、
成長が十分に実現しなければ、同じ結果になるとは限らない。

実際、内閣府の試算でも、成長戦略が十分に実現するケースと現状投影ケースでは、その後の財政の姿が異なる。

「成長戦略実現ケース ①」では債務残高対GDP比は低下傾向で推移する一方、「現状投影ケース」では2030年度頃から上昇に転じる姿となっている。

ここは非常に重要だと思う。

「積極財政をすれば財政が改善する」のではない。

 

正確には、
「積極財政によって想定した成長が実現すれば、財政の持続可能性と両立し得る」
のである。

であれば、「責任」の中心は、
その“想定した成長”が本当に実現しているのかを検証すること
にあるのではないだろうか。


4.では、何をKPIにするのか

たとえば政府が半導体、AI、量子、宇宙、エネルギー、防衛、コンテンツなどの分野に政策資源を投入するとする。

その際、
「○兆円の予算を確保した」
「○件の事業を採択した」
という数字だけでは十分ではない。

私なら、少なくとも次のような流れを見たくなる。

 

政府支出
↓
民間投資の誘発額
↓
国内設備投資
↓
生産性・潜在成長率
↓
雇用・賃金
↓
企業利益
↓
税収
↓
政府債務残高/GDP比

 

つまり、
「いくら使ったか」から「何が変わったか」へ。

さらに、
「何が変わったか」から「最終的に財政の持続可能性につながったか」へ。

この一連の因果関係を追い続ける必要があるのではないか。


5.もちろん、政府にも既に「検証」の仕組みはある

ここは誤解のないようにしておきたい。
政府に政策評価の仕組みが存在しないわけではない。

行政事業レビューでは、原則として全ての事業を対象に、EBPM(Evidence-Based Policy Making=証拠に基づく政策立案)の手法などを使って、成果目標に照らして事業の進捗や効果を点検する仕組みがある。

 

2026年度の資料では、対象は約5,000事業とされ、外部有識者の視点も取り入れながら、必要性・有効性・効率性を確認し、予算や事業の見直しにつなげる仕組みが示されている。

 

さらに会計検査院は、内閣から独立した憲法上の機関として国の決算を毎年検査し、不適切・不合理な会計経理について原因を究明し、是正や改善を促す役割を担っている。

したがって、
検証制度そのものがない、という話ではない。


6.私が知りたいのは「個別事業」と「国家戦略」がつながるのか、である

行政事業レビューで一つ一つの事業をチェックする。
会計検査院が予算執行を検査する。
内閣府が中長期の経済財政試算を作成する。

それぞれ必要な仕組みである。

 

しかし、「責任ある積極財政」という大きな政策を検証するには、それらをもう一段上でつなぐ必要があるように思う。

例えば、
半導体政策に5年間でいくら投入したのか。

 

その結果、
民間投資はいくら増えたのか。
国内生産能力はどれだけ増えたのか。
生産性や付加価値はどれだけ上がったのか。
雇用や賃金はどう変わったのか。
税収にはどれだけ寄与したのか。

 

そして最終的に、
当初想定した成長率や債務残高対GDP比の改善に、どの程度寄与したのか。

そこまで一本の線で示せれば、「責任ある」の意味はかなり分かりやすくなる。


7.計画どおりにいかなかった時こそ、「責任」が問われる

企業の中期経営計画も、最初からすべて予定どおり進むわけではない。

 

前提となる市場環境が変わることもある。

金利が上がることもある。
為替が動くこともある。
競合国が巨額の補助金を投入してくることもある。

 

国家の成長戦略なら、なおさらである。
大切なのは、予想を外さないことではない。

予想と現実がずれたときに、その理由を検証し、政策を修正できるかどうか。

例えば、
「5年後に民間投資を○兆円誘発する」
という目標を掲げたのであれば、

2年後、3年後に進捗を確認する。


想定を大きく下回れば原因を分析する。
制度を変える。
予算を減らす。
場合によっては撤退する。

逆に成果が大きければ、追加投資を検討する。

私は、このPlan→Do→Check→Actionまで含めて初めて、「責任ある積極財政」になるのではないかと思う。


8.「積極財政」だけでなく、「積極的な開示」も

もう一つ重要なのが、国民への情報開示である。

企業が大型投資をすれば、株主はその後の成果を知りたくなる。

国家の場合、最終的な資金の出し手は国民である。

 

であれば、
どこに、いくら投資したのか。
どのような成果を想定していたのか。
実際にどこまで達成したのか。
当初計画との差は何か。
今後、継続・増額・縮小・撤退のどれを選ぶのか。

 

これらを定期的に示す仕組みがあってもよいのではないか。

私は、巨大な一覧表を作ればよいとは思わない。

むしろ「責任ある積極財政ダッシュボード」のような形で、
投資額 → 民間投資 → 成長率 → 税収 → 債務残高対GDP比
を、国民が継続的に確認できれば分かりやすい。

 

政府は既に政策ダッシュボードやEBPMの取組を進めている。

それなら、その延長線上に「責任ある積極財政」全体の成果を見える化する仕組みがあってもよいように思う。


9.「責任」とは、支出を抑えることだけではない

「財政責任」という言葉を聞くと、
「支出を削ること」
を思い浮かべることも多い。

 

しかし、「責任ある積極財政」という考え方に立つのであれば、責任の意味はそれだけではないのだろう。

必要なところには投資する。

 

一方で、
目的を決める。
KPIを決める。
結果を測る。
前提との差を説明する。
うまくいかなければ修正する。

 

これもまた「責任」である。

むしろ、積極的に大きな財政資金を動かすからこそ、従来以上に厳しい事後検証が必要になる。


10.あれっ、「責任ある」の“責任”は、誰が負うのだろう

9月17日の基本方針には、
「責任ある積極財政」により「強い経済」を実現する
と書かれている。

私は、積極財政そのものの是非をここで論じたいわけではない。

 

むしろ注目したいのは、
「責任ある」
という二文字である。

企業なら、大型投資を決定した取締役会には、その後の進捗を確認する責任がある。

計画を作った経営陣には、結果を説明する責任がある。

そして監督する側には、計画と実績の乖離を問い続ける役割がある。

 

国家の大型成長投資では、どうだろう。

各省庁なのか。
経済財政諮問会議なのか。
財務省なのか。
行政改革推進会議なのか。
国会なのか。
会計検査院なのか。

おそらく、それぞれに役割がある。

 

だからこそ、
「誰が、いつ、どの数字を使って、何を検証し、その結果を次の予算にどう反映するのか」
まで明確になれば、「責任ある積極財政」という言葉は、より具体的なものになるのではないだろうか。

 

成長投資をする。
成長する。
税収が増える。
債務残高対GDP比が下がる。

そのシナリオが実現すればよい。

 

しかし、大切なのは、
実現することを期待することと、実現したかを検証することは違う
ということである。

 

「あれっ?」
『責任ある積極財政』の“責任”とは、もしかすると「いくら使うか」ではなく、「使った後をどこまで追い続けるか」ということなのではないだろうか。


参考資料
・首相官邸「基本方針」(2026年9月17日)
・内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2026年7月30日)
・内閣官房「行政事業レビュー」「EBPM推進委員会」関連資料
・会計検査院「会計検査の基本方針」「検査の目的」

 

※本稿は、政府公表資料等をもとに筆者個人の問題意識を整理したものであり、特定の政党、政治家、政策への支持または反対を目的とするものではありません。また、将来の経済成長率、財政収支、政府債務等について予測するものでもありません。政策の評価については、今後の予算、制度設計、実際の執行状況および公表される検証結果等を踏まえて判断する必要があります。
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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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