元証券マンが「あれっ」と思ったこと

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あれっ、山寺で芭蕉が聞いた蝉の声?

 

【 山寺:松尾芭蕉の蝉の声 】

 


 先日、山形県の山寺に行ってきた。

 以下は、山寺芭蕉記念館のWebサイトからの一部抜粋。
http://yamadera-basho.jp/?p=log&l=516582


 新暦にして7月13日、芭蕉曽良は尾花沢を発ち、山寺に向かいます。鈴木清風が楯岡まで馬を出してくれたので、山寺には午後2時50分から3時40分の間に着くことができました。芭蕉はこの日のうちに山寺立石寺の参拝を行います。この日は山寺の宿坊に宿泊しました。

 

  閑さや岩にしみ入蝉の声  芭蕉

 


ご参考1)「蝉の声」がするのに、なぜ「しずか」なの?
https://kokugonote.com/shidukasaya/

 

 『おくのほそ道』は、芭蕉が弟子の曾良(そら)を伴って、1689年(元禄2年)年から1691年(元禄4年)に奥州などを旅した際の紀行文です。芭蕉の死後、1702年(元禄15年)に刊行されました。

 

 この俳句は、山形県立石寺(りっしゃくじ・作品の中では「りふしやくじ」)に弟子の曽良と訪れた際の文章の中に位置づけられています。芭蕉曽良は、7月上旬(旧暦5月27日)に立石寺を訪れたと言われています。

 

直前の文章

(現代語訳)
山形領に立石寺という山寺がある。慈覚大師が開いた寺で、非常に清閑な地である。一度は見るといい、と人々がすすめるので、尾花沢より引き返し、その間は七里ほどである。日はまだ暮れていない。梺の宿坊に宿をかりておいて、山上の堂にのぼる。岩にまた大きな岩が重なり山となり、松や檜は年月が経ち、土や石も老いて苔は滑らかになり、岩上の院々は扉を閉じて、物音はきこえない。断崖をめぐり、岩を這うように、仏閣を拝み、素晴らしい景色は静まり返っており、ただ心が澄み切っていくことだけ感じられる。

 

閑さや岩にしみ入蝉の声


 この俳句には「や」という切れ字が使われています。切れ字は、その前の言葉を強調し、そこで言い切る働きをします。

 

 俳句の前半では、切れ字で「閑さ」を強調しています。
 後半では、体言止めで「蝉の声」を強調しています。

 

 前半で強調される「閑さ」と後半で強調される「蝉の声」が矛盾するという関係がこの作品の最大のなぞであり、魅力になっています。

 

  新漢語林には、用例として漢詩が示されていますが、「閑」は「心がしずか」という意味で使われています。


 「閑」は、物理的な静かさというより、心のしずかさや落ち着きといった意味をもっていることが分かります。

 

 ポイントは、蝉の声は自然の一部である、という点です。もしそれほどの音量でなかったとしても、「俗事」や「世間」が作り出す音であれば、心しずかではいられなかったかもしれません。


 もう一つ言えば、全くの無音ではなく、「蝉の声」がするからこそかえって「閑」(しずか)な心境でいられる、とも読むことができるかもしれません。

 

「しみいる」は、物理的にも使われることがないわけではないようですが、多くは心理的な文脈で使われる場合が多いようです。用例も「胸にしみいる」「心にしみいる」など心理的なものがほとんどです。また、「感動」といった定義や、「心にしみいる話」などの用例を見ると肯定文脈で使われることが多いようです。

 

 語り手(虚構としての作者)には岩が蝉の声をぐっと受け入れているように見える。蝉の声が、そこにじわっとしみているように感じられているということです。


 さらに、語り手(虚構としての作者)の心にも、蝉の声がしみ入っているのかもしれないと感じさせます。

 

 一見対比的な関係に見える「閑」と「蝉の声」。
 しかし、実はこの二つは同調し調和していることが読めます。

 

 さらに「岩」と「蝉の声」という対立的・対比的な関係にも見える二つのモチーフも、「しみ入」ということによって調和しています。


 つまり、矛盾に見える、対比に見えるけれども、実は、調和し同調しているというこの俳句の仕掛けが読めてくるのです。

 


ご参考2)立石寺
https://rissyakuji.jp/about/

 


<感想>
残念ながら、蝉の声は聞かれなかったが、300年前に芭蕉が見た景色とそれほど変わってはいないだろうと思うと山寺が一層愛おしく感じられた。

 

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