元証券マンが「あれっ」と思ったこと

元証券マンが「あれっ」と思ったことをたまに書きます。

あれっ、プレファレンスの水平方向への拡大?

 

【 確率思考の戦略論:認知・配荷・プレファレンスの伸び代 】

 


 先日、久しぶりに森岡毅氏の「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」(今西聖貴・共著、角川書店)を読み返しててみた。

 

 以下は一部抜粋。(その3)

 


3.「認知」の伸び代を探す

 

 まずは自社ブランドおよび主だった競合ブランドの認知率を測定してみましょう。

 

 仮に自社ブランドの市場における消費者認知が50%だったとすると、それを10pts伸ばして60%にすることができれば、ほぼ確実に売上は20%伸ばすことができます。

 

 極端な嗜好品の場合はそうはならない場合もありますが、認知率の伸びに対してビジネスはあるレベルまでは直線的な関係で伸長していきます。もし自社ブランドの認知率が、まだまだ競合などに比べても伸び代があるのであればラッキーです。それは「勝てる戦」の可能性が高い。

 

 まずはその伸び代をどう埋めるかを考えて戦略を立案してみましょう。

 


 問題は、それらの認知を上げる戦略にどれだけの経営資源をかけられるのか、あるいはかけるべきなのかという判断です。同じ20ptsを増やす場合でも、認知率を20%から40%に伸ばすためのマーケティング費用に比べて、70%から90%に伸ばすために必要なマーケティング費用は何倍もかかります。

 

 費用に対して認知率伸長の効果は逓減していくからです。ですから、認知を伸ばす戦略と、その他の戦略を比較して、どちらの方が簡単で安くて確実かを検討することになります。

 


4.「配荷」の伸び代を探す

 

 配荷率(Distribution)とは、市場にいる何%の消費者がその商品を買おうと思えば物理的に買える状態にあるかという指標です。

 

 配荷の課題は、配荷の面積だけではありません。配荷の質にも改善の伸び代がないかを探ってみなければなりません。店頭空間は、消費者がブランドを選ぶ真実の瞬間であり、それは市場の縮図そのものなのです。パンテーンのような圧倒的なブランドでさえも配荷に大きな伸び代があったように、多くのブランドにとって配荷の量も質も、認知と並んで最も確実な経営資源の投資先であることを理解しておくことは大切です。

 


5.「プレファレンス」の伸び代を探す

 

 ブランドのプレファレンスを伸ばそうとするときに、実戦経験の浅いマーケターがよくやってしまう過ちは、既存の特定の消費者ターゲットの中でのプレファレンスを伸ばすことで頭がいっぱいになってしまうことです。

 

 しかし、我々が肝に銘じておくべきは、あくまでも市場全体での自社ブランドへのプレファレンスを上げることです。USJのチケットを買うファンの人数を、市場全体でどう増やしていくのか? という勝負なのです。先ほど述べたように、既存顧客の深堀りばかりが芸ではなく、むしろ市場全体から新規顧客を獲得する方法を常に意識しておく必要があります。

 

 そういう視点に立ったときに、私はUSJの既存のファン層である映画が大好きな人達に更にUSJを好きになってもらうよう投資することよりも(プレファレンスの垂直方向への拡大)、明らかに効率が良く見えるファンの増やし方がいくらでも思いつけたのです(プレファレンスの水平方向への拡大)。

 

 つまり、狭すぎる消費者ターゲットの幅と、限られた範囲の消費者のプレファレンスしか満たさない狭すぎるパークのコンテンツを本気で改善すれば、USJは市場全体におけるプレファレンスを格段に大きく捕まえてもっと高く飛べると確信しました。実行できるかどうかのチャレンジはあったとしても、実行できればそれは高い確率で「勝てる戦」だと判断したのです。

 


 という訳で、「映画だけ」にこだわることがUSJにとっては百害あって一利なしであることは明白です。私の中では論点にすらならないので一切迷いませんでした。しかしUSJがそれを実績で証明するまでは、多くの厳しい御意見の大合唱でした。映画のテーマパークからズレると失敗するとか、ディズニーとの差別化ができなくなるから失敗するなどのご意見です。既存ファンの皆様のみならず、社内の根強い意見や社外のブログやネット記事などでも実に猛威を振るっていたのです。

 

 2015年度に年間集客はまた過去最高を更新して1390万人を達成していますが、それは私が入社した当時から+660万人もの集客増です。

 

 そしてその増えた膨大な集客数のほとんどは、かつてのファンの来場回数の増加よりも、プレファレンスを拡大したことで新規に獲得したファン人数の圧倒的な増加によるものです。

 

 では、「映画だけのテーマパーク」が大好きだったかつてのファン層が離れたかと言えば、そんなことは決してありません。水平方向に大幅に伸びただけではなく、かつてのファンの垂直方向への伸びも確認できています。それは5年半前に計算したとおりです。より多くの消費者の頭の中にUSJを買う必然(プレファレンス)を築き上げて、1人当たりの投票数「M」を劇的に増やしたのです。

 

「M」:自社ブランドをすべての消費者が選択した延べ回数を、消費者の頭数で割ったもの

 


<感想>
消費者認知を伸ばした上で、プレファレンスの水平方向への拡大による顧客数の拡大を目指したい。

 

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