【 株式所有構造の変化 】
月刊監査役 No.757(2023/12)に以下内容が掲載されていた。
(定義)
アウトサイダー:投資リターンの最大化を株式保有の目的とする機関投資家・個人資産家など
インサイダー:金融パフォーマンス以外の目的を持つ創業者、及びその家族など
1.国際的特徴:主要国の株式所有構造(2017年末、%)
1)事業法人、2)創業者・家族、3)機関投資家、4)個人投資家・証券会社、5)アウトサイダ-、6)インサイダ-、7)政府・公共部門
アメリカ合衆国:1)2、2)4、3)80、4)11、5)91、6)6、7)3
英国:1)6、2)6、3)68、4)16、5)84、6)12、7)4
ドイツ:1)23、2)21、3)21、4)31、5)52、6)44、7)3
フランス:1)27、2)21、3)21、4)31、5)52、6)48、7)4
香港(中国):1)18、2)19、3)12、4)27、5)39、6)37、7)24
インド:1)34、2)13、3)19、4)18、5)37、6)47、7)15
韓国:1)27、2)17、3)13、4)33、5)46、6)44、7)10
日本:1)24、2)6、3)31、4)35、5)66、6)30、7)5
アウトサイダー比率の高い順:1)アメリカ91%、2)英国84%、3)日本66%
インサイダー比率の低い順 :1)アメリカ6%、2)英国12%、3)日本30%
政府・公共部門比率の高い順:1)香港(中国)24%、2)インド15%、3)韓国10%
※アップル・マイクロソフトのブラックロック・バンガード・ステート・ストリート(3大機関)の合計保有比率:15.6%・16%
2.日本の株式所有構造
(1) インサイダー優位
・第2次大戦後の財閥解体を起点に20数年間を通じて徐々に形成、1970年代前半に定着~1990年代半ばまで安定
(2) アウトサイダー優位
1)1997年からの銀行危機から劇的に変化、インサイダーとアウトサイダーの比率が逆転
2)銀行・保険部門の急激な減少 ⇒ 内外の機関投資家の増加が補う
3.企業統治改革と所有構造の”静かな変容”
(1) 開示規制と政策保有株の売却
1)東証1部上場企業の政策保有株の売却率(当期売約した銘柄数/期初保有銘柄数):2011年 3.9% ⇒ 2019年 9.4%
2)上場企業の政策保有株銘柄数(平均)2010年度末53銘柄 ⇒ 2019年34.7銘柄
3)CGコード導入後(2015~2019年平均)の導入前(2011~2014年)に対する平均売却率:一方的な所有の場合2.1% < 持合い関係にある場合3.1%(岩盤と呼ばれていた事業法人間の相互持合いを解消する契機)
(2) 自社株取得と所有構造の調整
1)東証1部上場企業の2011~2019年の政策保有株の売却額合計:6.3兆円(この間の増資による資金調達額合計(8.1兆円)の8割に匹敵)
2)日本における自社株買いの主たる理由:公開市場取引)金融面の動機付け、準私的取引(ToSTNeT))支配権の考慮によって動機付け
3)事業法人の保有比率(2010年:23.3%、2019年:23.7%)の背景:政策保有株の売却 → 売却資金による自社株買いと金庫株保有 → 金庫株を利用した第三者割当という経路を通じた戦略的側面の強いブロック保有へ
(3) 責任投資とESGの推進力としてのGPIF
1)日本市場におけるパッシブファンドのシェア(2007年:32.5%、2017年:66.7%)の背景:1)2010年以降の日銀によるETF購入の急増、2)2014年のGPIFの日本株への資金配分の増加
2)日銀+GPIFのインデックスファンドへの投資残高:2014年度末31.1兆円 ⇒ 2020年度末約80兆円へ(東証時価総額に占めるシェア:5.8% ⇒ 11.1%へ)
3)GPIFの2つの戦略:
1)2017年:2つのESGスコアに基づくインデックス投資を開始(FTSE Blossom、MSCI ESG Leaders)。2017年1.2兆円 → 2021年3.9兆円へ(その後追加されたMSCI日本株女性活躍指数などを加えると6.7兆円)。2022年春:GPIFの日本株に対するパッシブ投資の14%へ
2)スチュワードシップ活動:対話に積極的に取り組む運用機関に対し追加的に報酬を支払う方針を設定
4)日本のFTSE・ESGスコア(ポイント):2013年13(平均21、仏28)、2017年17(平均22、仏28)、2021年23(平均25、仏30) 。GPIFの2つの戦略が日本企業のESG活動拡大のドライバーになった
4.今後の企業統治改革:二重の課題
(1) 資本効率の向上の方向に経営を規律付けるメカニズムの整理
・依然多数のPBR1倍割の企業が存在
・地球的課題の取組を支える所有面の基盤の構築が過度に重視されれば、パフォーマンスの測定に主観的な側面が残るESGは経営者にパフォーマンス低下の恰好の口実を与えるため、資本効率改善の取り組みを遅らせるおそれも
(2) 長期的な経営、地球的課題の取組を支える所有面の基盤の構築
・株式相互持合いの解消、事業法人ブロック保有の維持、対話活動のアウトソーシングを通じたESG対話の活発化
・株主優位の側面によって支配された場合、企業の成長と研究開発投資、地球的課題の解決は短期志向の投資家によって制限される可能性も
<感想>
日本のアウトサイダー比率が、米国、英国に次いで第3位というのは、イメージと違っていた。意外に株式市場が洗練されつつあるのかもしれない。
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