元証券マンが「あれっ」と思ったこと

元証券マンが「あれっ」と思ったことをたまに書きます。

あれっ、買収提案に対する取締役会の真摯な検討?

 

【 企業買収における行動指針 】

 


 月刊 監査役 No.756(2023/11)に、以下内容が添付記事が掲載されていた。(その2)

 


「企業買収における行動指針」について

保坂泰貴 弁護士(前経済産業省 経済産業政策局 産業組織化 課長補佐)
https://www.mhmjapan.com/ja/people/staff/17554.html

 


5.買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範
(1) 総論

 日本においては、買収提案を受領しても経営陣限りで扱い取締役会に速やかな報告がなされないケースや、取締役会における検討が不十分又は不適切なケースが見られるとの指摘があり、その背景には、買収提案を受けた際の取締役・取締役会の一般的な行動規範が判例法理等で明確に示されておらず、実務上も取るべき行動についての共有認識が形成されていない問題があるとの意見が本研究会では出された。

 

(2) 買収提案を受領した場合
1)取締役会への付議・報告

 本指針は、経営支配権を取得する旨の買収提案を受領した場合には、速やかに取締役会に付議又は報告することが原則となるとし、買収提案が具体性を有していることに加えて一定の信用力があるにもかかわらず、取締役会に付議しないことによって、望ましい買収が顕在化する機会を失わせるべきではないとする。また、買収提案を取締役会に付議しない場合でも、速やかに取締役会に報告することにより、経営陣に対する監督機能を発揮させるべきであるとしている。

 

2)取締役会における検討
 本指針は、取締役会では、「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」をすることが基本であるとする。ここでの「真摯な買収提案」(bona fide offer)とは、具体性・目的の正当性・実現可能性のある買収提案のことを意味している。

 

(3) 取締役会が買収に応じる方針を決定する場合
 「取締役会が買収に応じる方針を決定する場合」においては、取締役・取締役会は、会社の企業価値を向上させるか否かの観点から買収の是非を判断するとともに、株主が享受すべき利益が確保される取引条件で買収が行われることを目指して合理的な努力を行うべきであるとする。

 

(4) 公正性の担保-特別委員会による機能の補完
 買収提案の検討における取締役・取締役会の行動としては、特別委員会の設置や外部のアドバイザーの助言等の公正な手続(公正性担保措置)を講じることも考えられる。本指針は、このような公正な手続を取ることにより、通常は株主の利益がより確保されやすくなるとする。

 


6.買収に関する透明性の向上
(1) 買収者による情報開示

 現行の公開買付制度では、市場内買付けは、原則として強制公開買付規制の適用対象とはされていない。もっとも、近年、市場内買付けによって経営支配権に影響を与える程度の株式を短期間に取得する事例も見受けられ、買収の是非の判断に資する情報や時間が株主に対して十分に与えられない等の問題も指摘されている。

 

(2) 対象会社による情報開示
 株主によるインフォームド・ジャッジメントの実現のためには、対象会社からの情報開示を充実させることも重要であるが、本指針は、買収が実施される段階と、買収提案の検討中とで情報開示の在り方を区別している。

 


7.買収への対応方針・対抗措置
(1) 買収への対応方針・対抗措置に関する考え方

 経済産業省は、買収防衛策(買収への対応方針・対抗措置)について、2005年に「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」を策定していたが、本指針は、その後の環境変化も踏まえて、2005年の指針を一部見直した上で、買収への対応方針・対抗措置の在り方を改めて示している。

 

(2) 株主意思の尊重
 本指針は、対応方針に基づく対抗措置の発動は、会社の経営支配権に関わるものであることから、株主の合理的な意思に依拠すべきであるとする(第2原則参照)。そして、対応方針の導入の段階、又はこれに基づく対抗措置の発動の段階で、株主総会における決議を経ることで、適法性が相対的に認められやすくなるとしている。

 

(3) 必要性と相当性の確保
 買収への対応方針に基づく対抗措置の発動は、株主平等の原則、財産権の保護、経営陣の保身のための濫用防止等に配慮し、必要かつ相当な方法によるべきである。対抗措置の適法性をこうした必要性と相当性の要件から判断する枠組みは、裁判所の枠組みと軌を一にしていると考えられる。

 

(4) 資本市場との対話
 対応方針を平時に導入する場合、株主の理解と納得を得られなければ、実際には導入することが困難である。他方で、機関投資家の反対率は高い状況にあり、本研究会の議論の過程でも、経営陣の保身や買収提案の萎縮効果への懸念、企業価値向上へ寄与していない等の厳しい意見が寄せられたところである。


8.おわりに
 本指針が、日本の法制度や判例法理、実務の発展と相互に補完し合う形で、日本における公正なM&Aルールの進展を促す役割を果たすことを期待したい。

 


ご参考1)経産省「企業買収における行動指針」
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003.html

 


ご参考2) 2023/12/7:ベネフィット・ワン「第一生命ホールディングス株式会社による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」
https://global-assets.irdirect.jp/pdf/tdnet/batch/140120231207500372.pdf

「第一生命ホールディングスとも誠実に協議等を行い、当社取締役会及び特別委員会において、当社の企業価値及び株主共同の利益の観点から慎重に検討を行った後に、改めて当社の見解を公表させていただく予定です。」

 


<感想>
2023/12/7、第一生命が、ベネフィット・ワン(BO)宛てに、エムスリーによるBO株式のTOBに対抗するTOBの提案を実施した。
本件は第一生命による「真摯な買収提案」に該当するものと思われ、今後のBO取締役会での「真摯な検討」についての公表が注目される。

 

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