元証券マンが「あれっ」と思ったこと

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あれっ、音楽の世界もフラット化?


宇多田ヒカル:8年半ぶりのアルバムFantome 】

 


 2013/8/22に、宇多田ヒカルの母、藤圭子が逝去されて10年。

 

 以下は、「宇多田ヒカル論 世界の無限と交わる歌」(杉田俊介著、毎日新聞出版)からの一部抜粋。(その2)

 


第六章 幽霊的な友愛のほうへ  

 

  世界に開かれた感覚 

 

 『Fantome』は、シンプルで王道的なボップソングが中心のアルバムである。実際にはかなり複雑な試みがなされているとしても、少なくとも、そこにはポップな聴き方を許すような親しみやすさがある。  

 

 今回のアルバムでは、言葉を何より大事にしたかった、美しい「日本語のポップス」で勝負したかった、宇多田は何度もそう言っている。つまり、日本語でいう「唄」にしたいのだ、と。実際に、『Fantome』の中で、英語やフランス語のフレーズはほんのわずかに出てくるだけである。しかし、それだけではない。

 

 いろいろな状況の、いろいろなタイプの人々に当てはまるような普遍的な曲を目指した。実際に、宇多田が向き合っているテーマは、宇多田ヒカルの個人的な体験や宿命的な出自に深く根差しながらも、だれもが経験しうるような普遍的なもの(親子の別れや友達との関係など)であり、透明な純水のように、ぎりぎりまで不純物を取り除いたものである、という感じがする。  

 

 そして、現実的に『Fantome』は発売直後から売れた。 

 

 発売から三週連続、国内のアルバムのトップの売上を記録した。それは宇多田にとってすら、デビュー十八年目で初めてのことだという。

 

 国内だけではない。諸外国でもヒットした。発売日翌日9月29日のiTunesアルバム総合ランキングでは全米3位を記録。フィンランドで一位となり、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、スウェーデンなどでトップ20以内にランクイン。アジア各国においても、香港、台湾、シンガポールで一位となる。全世界のiTunesアルバム総合ラインキングでも6位を記録した。

 

 本人やスタッフは率直な驚きを表明している。

 海外に向けての大掛かりな展開や仕掛けのようなものは、ほとんどなかったという。作品の圧倒的なクオリティと洗練が、国境を超えて伝播する原動力となったのだろう。

 

 それは、すでに「海外進出」という言葉に意味がなくなり、「国内」と「海外」の間の壁が大きなものではなくなり、つまり、音楽環境として「日本という国も、英米以外のヨーロッパやアジアや南米の各国と同じように、グローバルに広まるポップカルチャーと特殊な自国カルチャーが混じりあう一つの国でしかない」という状況にふさわしいのかもしれない(芝那典「宇多田ヒカル『Fantome』、国内外で大反響-グローバルな音楽シーンとの“同時代性”を読む」、「RealSound」2016年10月3日配信)。  

 


<感想>
 『Fantome』が諸外国でもヒットしたのは、2004年に全米で勝負した『EXODUS』の時代と違い、音楽の世界の(iTunes等を通しての)フラット化が進んで、言語は関係なく、純粋に良いものは良いとする時代が来たことが要因の一つであろう。

 

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